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知るコレ!

田んぼ潤し生き物育む ため池

池の周囲(しゅうい)が約(やく)16キロある入鹿池(いるかいけ)。ワカサギなどの釣(つ)り場としても親しまれています=愛知県犬山(あいちけんいぬやま)市で

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 7月の西日本豪雨(ごうう)では、「ため池」の堤(つつみ)が壊(こわ)れて、水や土砂(どしゃ)があふれ出す被害(ひがい)が相次(あいつ)ぎました。ため池は農業(のうぎょう)用に造(つく)られ全国(ぜんこく)に約(やく)20万カ所(しょ)あります。都市化(としか)などで減少傾向(げんしょうけいこう)ですが、その様子(ようす)や働(はたら)きは、どうなっているのでしょうか。 (佐橋大(さはしひろし))

 愛知県犬山(あいちけんいぬやま)市にある入鹿池(いるかいけ)は、周囲(しゅうい)が16キロの国内有数(ゆうすう)の大きなため池です。江戸時代初期(えどじだいしょき)の1633年、水が得(え)られにくい高台を水田にするため、山あいの川をせき止めて築(きず)かれました。今も、池から引かれた水が600ヘクタール余(あま)りの田んぼを潤(うるお)しています。

 全国(ぜんこく)にある約(やく)20万のため池の約7割(わり)は、江戸時代以前(いぜん)に造(つく)られました。目的(もくてき)は、農業(のうぎょう)に使(つか)う水を確保(かくほ)すること。雨の少ない瀬戸内海(せとないかい)の沿岸(えんがん)や大きな川のない地域(ちいき)に多く整(ととの)えられました。

 150年前には大雨で堤(つつみ)が壊(こわ)れ、1000人もが亡(な)くなる大惨事(だいさんじ)が起(お)きた入鹿池。その後何度(なんど)も対策工事(たいさくこうじ)をして、耐震性(たいしんせい)や洪水(こうずい)への対応力(たいおうりょく)が高いことが確認(かくにん)されています。ですが、農林水産省(のうりんすいさんしょう)によると、全国には安全面(あんぜんめん)で課題(かだい)を抱(かか)えるため池もあります。2013〜15年に行われた安全性の調査(ちょうさ)では、堤が切れると下流(かりゅう)の民家(みんか)に大きな被害(ひがい)を及(およ)ぼす「防災重点(ぼうさいじゅうてん)ため池」のうち、耐震性で21%、豪雨(ごうう)への対応力で12%がそれぞれ不十分(ふじゅうぶん)でした。

 通常(つうじょう)、ため池には、ためた水で堤が壊れないように、水を効率(こうりつ)よく排出(はいしゅつ)する施設(しせつ)「洪水吐(こうずいばき)」が付(つ)いていますが、最近(さいきん)のような豪雨に対応するほどの機能(きのう)がなかったり、古い工法(こうほう)で堤の締(し)め固(がた)めが弱い上、老朽化(ろうきゅうか)でさらに弱くなったりしていました。点検(てんけん)の結果(けっか)を受(う)けた対策工事が各地(かくち)で進(すす)められているところです。

 西日本豪雨では、広島(ひろしま)県を中心に、30のため池で堤が壊れて水があふれました。老朽化との関係(かんけい)は不明ですが、長雨によって、堤の土が多くの水を含(ふく)んで滑(すべ)り落(お)ちる被害が多発(たはつ)しました。豪雨の後、国は、ため池の堤に亀裂(きれつ)などが入っていないかを8月末(まつ)までに点検するよう、全国の自治体(じちたい)に指示(しじ)しています。

 長年の間に、ため池は農業(のうぎょう)用水の供給(きょうきゅう)という本来の目的(もくてき)に加(くわ)え、多くの役割(やくわり)を担(にな)うようになっています。一つは、洪水(こうずい)を防(ふせ)ぐ役割。流(なが)れ込(こ)んだ水をいったんため、下流(かりゅう)の川の水位(すいい)の上昇(じょうしょう)を抑(おさ)えます。また、釣(つ)り場や憩(いこ)いの場として親しまれるため池もあります。

 愛知学院(あいちがくいん)大の講師(こうし)、富田啓介(とみたけいすけ)さん(38)は「生き物(もの)の多様性(たようせい)を維持(いじ)する機能(きのう)もあります」と指摘(してき)します。トンボの幼虫(ようちゅう)や在来(ざいらい)の水草、湿地(しっち)を好(この)む植物(しょくぶつ)など、都市化(としか)で姿(すがた)を消(け)しつつある植物や昆虫(こんちゅう)がため池をすみかにして命(いのち)をつないでいます。

 富田さんら、ため池の自然(しぜん)を調査(ちょうさ)、研究(けんきゅう)する人たちでつくる「ため池の自然研究会」の会員(かいいん)と一緒(いっしょ)に、名古屋(なごや)市守山区(もりやまく)で複数集中(ふくすうしゅうちゅう)するため池を巡(めぐ)りました。住宅地(じゅうたくち)の近くに、生き物のすみかになるヨシ原のあるため池や、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)マメナシ(イヌナシ)の木がほとりに生えるため池もあり、その働(はたら)きを実感(じっかん)できました。

 水の事故(じこ)を防ぐため、フェンスで囲(かこ)われたため池がある一方、学習(がくしゅう)の場で使(つか)われるため池もあります。例(たと)えば愛知県(けん)では県内2410のため池のうち78が自然観察(かんさつ)などで活用されています。

 ため池は減(へ)っています。大規模(だいきぼ)な農業用水路(ようすいろ)が造(つく)られ水が手に入りやすくなったり、都市化で農地が宅地に変(か)わり必要(ひつよう)な水が減ったりしたからです。例えば、愛知県の知多半島(ちたはんとう)には1884年、1万7000を超(こ)えるため池がありましたが、今は約(やく)1000まで減りました。

 富田さんは「ため池は里山の水辺版(みずべばん)で、貴重(きちょう)な自然といえます。生き物を育(はぐく)む機能は失(うしな)われると元に戻(もど)りません。安全性(あんぜんせい)に目を配(くば)りつつ、池の保全(ほぜん)も皆(みな)で考えるべきでは」と話します。

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