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知るコレ!

溶けない?!アイス  

「溶(と)けない?!アイス」を開発(かいはつ)した太田富久名誉教授(おおたとみひさめいよきょうじゅ)=石川県金沢(いしかわけんかなざわ)市の金沢大で

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水分と油分 離れない

 暑(あつ)くなると食べたくなるアイスクリーム。溶(と)けだす前に「早く食べなきゃ」と焦(あせ)ってしまいますが、温度(おんど)が上がっても形が崩(くず)れにくい「溶けない?!アイス」が開発(かいはつ)され、各地(かくち)に広がっているそう。研究者(けんきゅうしゃ)を訪(たず)ね、秘密(ひみつ)を探(さぐ)ってきました。 

 制服姿(せいふくすがた)の若者(わかもの)や外国人観光客(かんこうきゃく)でにぎわう東京(とうきょう)・原宿(はらじゅく)の竹下通(たけしたどお)り。汗(あせ)ばむ陽気(ようき)となった四月下旬(げじゅん)、修学旅行(しゅうがくりょこう)で訪(おとず)れたという北海道(ほっかいどう)の中学生たちが、店先で棒(ぼう)アイスをほおばっていました。

 おしゃべりを楽しみながら食べていても、クリームが溶(と)けだして手がベトベトになることはありません。「食べた感(かん)じは普通(ふつう)のアイスなのにどうして?」と不思議(ふしぎ)そうです。

 石川県金沢(いしかわけんかなざわ)市で生まれた「金座和(かなざわ)アイス」。昨年(さくねん)、金沢大薬学部(やくがくぶ)の太田富久名誉教授(おおたとみひさめいよきょうじゅ)(71)が研究責任者(けんきゅうせきにんしゃ)を務(つと)めるベンチャー企業(きぎょう)が開発(かいはつ)しました。市内に一号(ごう)店がオープンして話題(わだい)を集(あつ)め、東京や大阪(おおさか)など各地(かくち)に広がっています。

 アイスには、江戸時代(えどじだい)まで北陸(ほくりく)地方を治(おさ)めた前田(まえだ)家の家紋(かもん)や、雪から松(まつ)を守(まも)る「雪つり」などの形があり、味(あじ)はバニラや抹茶(まっちゃ)など六種類(しゅるい)。豊田剛史(とよだたけし)社長(41)は「室温(しつおん)で一時間ほど置(お)いたままでも、形を保(たも)つことができるのが特徴(とくちょう)」と説明(せつめい)します。

 不思議なアイスのもとになっているのが、イチゴから抽出(ちゅうしゅつ)した「イチゴポリフェノール」という成分(せいぶん)。植物(しょくぶつ)が含(ふく)む「ポリフェノール」の一種です。太田教授は、この成分が持(も)つ「ある働(はたら)き」を発見(はっけん)し、アイスに応用(おうよう)しました。

 きっかけは七年前。東日本大震災(だいしんさい)の被災地(ひさいち)を支援(しえん)しようと、宮城(みやぎ)県産(さん)のイチゴで作ったエキスを洋菓子(ようがし)店に提供(ていきょう)すると、店の人から「生クリームに混(ま)ぜると固(かた)まりやすくなるのはなぜか?」と電話がありました。

 調(しら)べると、イチゴポリフェノールが、クリームの油分(ゆぶん)と水分をつなぐ橋渡(はしわた)しの役目(やくめ)を果(は)たし、形を保ちやすくしていることが分かったのです。

 アイスは普通、生クリームや牛乳(ぎゅうにゅう)の脂肪(しぼう)分(油分)と空気の泡(あわ)、氷(こおり)の結晶(けっしょう)(水分)でできています。温度(おんど)が低(ひく)いとくっついて固まっていますが、温度が上がると氷が溶けて水分と油分が離(はな)れるため形が崩(くず)れます。

 アイスの材料(ざいりょう)にイチゴポリフェノールのエキスを混ぜると、イチゴポリフェノールの働きで、水分や空気の泡が油分に囲(かこ)まれた状態(じょうたい)になります。温度が上がると氷は溶けますが水分は油分に囲まれて流(なが)れ出ないため、形が崩れにくいのです。

 風邪(かぜ)をひいて食欲(しょくよく)がないとき「アイスなら食べられた」という経験(けいけん)がある人も多いでしょう。太田教授は「ゆっくり食べられる特徴を生かし、今後は病気(びょうき)が進行(しんこう)して食が細くなった入院患者(にゅういんかんじゃ)さんの食事(しょくじ)にも役立てたい」と話しています。

 イチゴポリフェノールだけでなく、最近(さいきん)はお菓子(かし)や飲料(いんりょう)などでさまざまなポリフェノールを目にする機会(きかい)が増(ふ)えています。どんな成分(せいぶん)なのでしょうか。

 「植物(しょくぶつ)に含(ふく)まれている渋味(しぶみ)や苦味(にがみ)の成分で、自然界(しぜんかい)に数千種類(しゅるい)あります」と太田教授(おおたきょうじゅ)。例(たと)えば緑茶(りょくちゃ)のカテキン、ブルーベリーのアントシアニン、大豆(だいず)のイソフラボンなどは、すべてポリフェノールの仲間(なかま)です。

 植物は紫外線(しがいせん)や乾燥(かんそう)などのストレスから身(み)を守(まも)ろうと体内でポリフェノールを作っています。ポリフェノールは、ストレスによって発生(はっせい)し細胞(さいぼう)を傷(きず)つける「活性酸素(かっせいさんそ)」を減(へ)らす働(はたら)きをするからです。

 ヒトも、さまざまなストレスによって体内に活性酸素が増えると、がんなどの病気(びょうき)や老化(ろうか)の原因(げんいん)になります。動物(どうぶつ)はポリフェノールを持(も)たないため、私(わたし)たちは植物の成分を食品(しょくひん)や化粧(けしょう)品などに入れ、その力を借(か)りているのです。

 すべてのポリフェノールの働きが解明(かいめい)されているわけではありません。小学生のころ、生まれ育(そだ)った長野(ながの)市の里山が遊(あそ)び場だったという太田教授は「野菜(やさい)や果物(くだもの)、草花などたくさんの植物に触(ふ)れ、それぞれの特徴(とくちょう)に興味(きょうみ)を持ってみて。思わぬ発見があるかもしれません」と話しました。

(川合道子(かわいみちこ))

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