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知るコレ!

渦きっかけ 海流うねる 黒潮大蛇行

黒潮大蛇行(くろしおだいだこう)の好影響(こうえいきょう)を受(う)け水揚(みずあ)げされる初(はつ)ガツオ=静岡県御前崎(しずおかけんおまえざき)市で

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 日本列島(れっとう)の南岸(なんがん)を北上し、温暖(おんだん)な気候(きこう)をもたらしてくれる海流(かいりゅう)、黒潮(くろしお)。この黒潮が昨年(さくねん)9月ごろから12年ぶりに大蛇行(だいだこう)しています。どうしてこんなことが起(お)こるのでしょうか。海の環境(かんきょう)の変化(へんか)は、漁業(ぎょぎょう)や気象(きしょう)にどのような影響(えいきょう)を及(およ)ぼしているのでしょうか。 (宮崎厚志(みやざきあつし))

 今年1月、東京都心(とうきょうとしん)で4年ぶりとなる大雪警報(けいほう)が発令(はつれい)され、23センチもの積雪(せきせつ)で交通機関(きかん)が大きく乱(みだ)れました。その原因(げんいん)の1つとみられているのが、黒潮大蛇行(くろしおだいだこう)です。海水温(かいすいおん)が高く温(あたた)かい空気を運(はこ)ぶ黒潮。そのルートが日本列島(れっとう)から離(はな)れ、黒潮に沿(そ)って進(すす)む南岸低気圧(なんがんていきあつ)の進路(しんろ)が影響(えいきょう)を受(う)け、北からの寒気(かんき)が入りやすくなったのです。

 黒潮は太平洋(たいへいよう)を大きく時計回りに流(なが)れる海流(かいりゅう)の一部(いちぶ)。約(やく)100キロにわたる幅(はば)の広さや、1000メートルに及(およ)ぶ深(ふか)さ、常時秒速(じょうじびょうそく)2メートルほどの速(はや)さなどから、世界最大(せかいさいだい)の海流の1つといわれています。台湾沖(たいわんおき)から沖縄諸島(おきなわしょとう)の西側(がわ)を北上し、屋久島(やくしま)の南側にあるトカラ海峡(かいきょう)を通過(つうか)して、日本の南岸を進みます。

 これが昨年(さくねん)9月ごろから12年ぶりに大蛇行しています。黒潮が本州最南端(ほんしゅうさいなんたん)(和歌山県(わかやまけん)・紀伊半島(きいはんとう)の潮岬(しおのみさき))から離れ、北緯(ほくい)32度(ど)より南を流れ、さらに八丈島(はちじょうじま)の北を通るようになると大蛇行と認定(にんてい)されます。発生(はっせい)のメカニズムは長らく謎(なぞ)に包(つつ)まれていましたが、近年の研究(けんきゅう)で解明(かいめい)されてきました。

 海では風や海底(かいてい)の地形などが原因で大小さまざまな渦(うず)ができ、この渦によって海流の蛇行が始(はじ)まります。黒潮は、トカラ海峡通過後にできた渦によって小さな蛇行を始め、紀伊半島の南の海底にある膠州(こうしゅう)海山にぶつかって増幅(ぞうふく)。さらに大きな渦をつくり、紀伊半島から離れていきます。その後伊豆(いず)諸島周辺(しゅうへん)の海底山脈(さんみゃく)に沿って北上し、その軌跡(きせき)はむちのような大きなうねりを描(えが)きます。

 大蛇行の最(もっと)も古い観測記録(かんそくきろく)は、1853年のペリー来航(らいこう)時。アメリカに持(も)ち帰った日本沿岸(えんがん)の海水温などの記録から分かりました。ただ、現在(げんざい)のような本格的(ほんかくてき)な観測が始まったのは1960年代(ねんだい)から。データの収集(しゅうしゅう)と分析(ぶんせき)を行っている海洋研究開発機構(かいはつきこう)(JAMSTEC(ジャムステック))の主任(しゅにん)研究員(いん)の美山透(みやまとおる)さん(48)によると、スーパーコンピューターの活用により、2カ月前には発生や終(お)わりを予測(よそく)できるようになりました。

 この50年間で大蛇行の発生頻度(ひんど)は少なくなり、期間(きかん)も短(みじか)くなっています。美山さんは「地球温暖化(ちきゅうおんだんか)の影響で蛇行しづらくなるという説(せつ)もあります」と説明。まだまだ全容(ぜんよう)は解明されておらず、「もっと長い周期で変動(へんどう)しているのかもしれない」と、地球の神秘(しんぴ)に考えを巡(めぐ)らせていました。

 漁業(ぎょぎょう)は大きな影響(えいきょう)を受(う)けています。昨年(さくねん)秋、静岡県内(しずおかけんない)はシラスが不漁(ふりょう)になり、今年3月の漁解禁(かいきん)後は好調(こうちょう)に。また黒潮(くろしお)に乗(の)ってやってくる春の初(はつ)ガツオは、深刻(しんこく)な不漁となっている紀伊半島(きいはんとう)近海とは対照的(たいしょうてき)に、伊豆諸島(いずしょとう)近海は4月に入って大漁となっています。静岡県御前崎(けんおまえざき)市の御前崎港(こう)で一本釣(いっぽんづ)りのカツオを水揚(みずあ)げしていた漁師(りょうし)の谷水金弘(たにみずかねひろ)さん(66)は「大きいのは少ないけど、量(りょう)は多い。(前回の大蛇行(だいだこう)の)13年前と似(に)ているので、しばらくは期待(きたい)できる」と笑顔(えがお)。漁場が近づいたことで燃料費(ねんりょうひ)は例年(れいねん)の半分ほどといい「今のところは大蛇行さまさま」と感謝(かんしゃ)していました。

 一方、平均水温(へいきんすいおん)が約(やく)1.5度低下(どていか)した紀伊半島西側(がわ)の海では、サンゴの大量死(し)が発見(はっけん)されました。それでも東京海洋(とうきょうかいよう)大の吉田次郎特任教授(よしだじろうとくにんきょうじゅ)(65)は「大蛇行は自然現象(しぜんげんしょう)なので受け入れるしかない。漁業にとっては必(かなら)ずしもマイナス面(めん)だけではなく、冷水域(れいすいいき)の魚が捕(と)れるようになるかもしれない」と冷静(れいせい)に捉(とら)えていました。

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