トップ > 特集・連載 > 知るコレ! > 記事一覧 > 記事

ここから本文

知るコレ!

別の顔 作り出す技術 特殊メーク

俳優(はいゆう)の西田敏行(にしだとしゆき)さん(左下)ら芸能人(げいのうじん)のライフマスク=東京都世田谷区(とうきょうとせたがやく)のメイクアップディメンションズで

写真

 先月5日、アメリカ・アカデミー賞(しょう)の「メーキャップ&(アンド)ヘアスタイリング賞」に、日本人で初(はじ)めて、アメリカ在住(ざいじゅう)の辻一弘(つじかずひろ)さん(48)が選(えら)ばれました。歴史上(れきしじょう)の人物(じんぶつ)から怪物(かいぶつ)にまで、似(に)ても似つかない役者(やくしゃ)を、そっくりに仕立(した)てる特殊(とくしゅ)メークは、映画(えいが)やテレビの演出(えんしゅつ)に欠(か)かせません。どんなことができるのでしょうか。 (福沢英里(ふくざわえり))

 東京都内(とうきょうとない)の東宝(とうほう)スタジオにある特殊(とくしゅ)メークの会社「メイクアップディメンションズ」。出迎(でむか)えてくれた特殊メークアップアーティストの江川悦子(えがわえつこ)さんの肩越(かたご)しに、物理学者(ぶつりがくしゃ)のアインシュタインや、戦国時代(せんごくじだい)の茶人、千利休(せんのりきゅう)の「顔」が見えます。すべて特殊メークによる模型(もけい)ですが、声が聞こえそうなほどリアルです。

 特殊メークとは、別(べつ)の顔を作り上げる技術(ぎじゅつ)のこと。俳優(はいゆう)やタレントなどの顔に人工皮膚(ひふ)やひげ、かつらなどの装具(そうぐ)を張(は)り付(つ)けるほか、傷(きず)だらけのゾンビや毛むくじゃらの動物(どうぶつ)などのマスクをかぶせる方法(ほうほう)もあります。

 歴史(れきし)をひもとくと、1931年に公開(こうかい)されたアメリカのホラー映画(えいが)「フランケンシュタイン」の怪物(かいぶつ)メークが最初(さいしょ)。フランケンシュタインといえば面長(おもなが)の顔にせり出した額(ひたい)、首に突(つ)き刺(さ)さったボルトが思い浮(う)かびますよね。「俳優の顔にコットンなどを直接(ちょくせつ)張り付け、液状(えきじょう)のゴム素材(そざい)で盛(も)り付けて固(かた)めるのが当時のやり方。とても時間がかかったそうです」と江川さん。重(おも)さも相当(そうとう)だったでしょう。

 江川さんがこの仕事(しごと)を始(はじ)めるきっかけになった、81年公開のアメリカ映画「狼男(おおかみおとこ)アメリカン」も反響(はんきょう)を呼(よ)びました。もがき苦(くる)しむ男性(だんせい)の体が次第(しだい)に毛に覆(おお)われ、牙(きば)むき出しの巨大(きょだい)なオオカミに変身(へんしん)。メークを担当(たんとう)したリック・ベイカーさんには、翌年(よくねん)に創設(そうせつ)されたアカデミー賞(しょう)のメーキャップ賞が贈(おく)られました。

 一方、日本では「老(ふ)けメーク」の需要(じゅよう)が多いそう。しわの刻(きざ)まれた肌(はだ)、たるんだ首筋(くびすじ)=写真(しゃしん)。ここまで忠実(ちゅうじつ)に再現(さいげん)できる理由(りゆう)は素材の進化(しんか)です。人工皮膚は液状のゴムからシリコーンになり肌の透明感(とうめいかん)が出せるように。しわやたるみを作るのに使(つか)う油粘土(あぶらねんど)もきめが細かく、毛穴(けあな)や肌の凹凸(おうとつ)まで表現(ひょうげん)できます。

 ただ、アメリカと違(ちが)うのは、俳優のイメージを残(のこ)すこと。どんな顔や雰囲気(ふんいき)にしたいのか、映画監督(かんとく)やドラマのプロデューサーとの話し合いは欠(か)かせません。「架空(かくう)の怪物を作るより難(むずか)しい」のも老けメーク。お年寄(としよ)りは身近(みぢか)にいるので、不自然(ふしぜん)さが残ると「何か張っているな」と分かってしまうからです。「『こういう人いるよね』って視聴者(しちょうしゃ)が自然に受(う)け止めてくれるメークが求(もと)められます」

 自然(しぜん)なメークはどのように作られるのでしょうか。まず「ライフマスク」と呼(よ)ばれる俳優(はいゆう)らの顔型(かおがた)を石こうで取(と)ります。次(つぎ)に油粘土(あぶらねんど)で作った皮膚(ひふ)のしわやたるみを載(の)せ、額(ひたい)や●(ほお)などのパーツごとに別(べつ)の型(かた)を取ります。皮膚用のシリコーンを流(なが)し込(こ)めば人工皮膚のできあがり。約(やく)1ミリの薄(うす)さです。

 ここからが職人技(しょくにんわざ)。俳優の顔の筋肉(きんにく)に沿(そ)わせるように人工皮膚を重(かさ)ね合わせ、境目(さかいめ)が分からないように専用(せんよう)のパテで肌(はだ)になじませます。その上から目のくぼみやしみ、肌の赤みなどを付(つ)けて、目標(もくひょう)の顔そっくりに仕上(しあ)げます。

 一方、かぶせるマスクは特殊(とくしゅ)なゴム素材(そざい)で作られ、スポンジのような軟(やわ)らかさ。肌の色は、接着剤(せっちゃくざい)を混(ま)ぜたアクリル絵の具(ぐ)で塗(ぬ)り、毛は1本1本、植(う)えます。

 最低(さいてい)1時間半は必要(ひつよう)です。ひげを付けたり白髪(しらが)を染(そ)めたりすると、2、3時間かかることも。数人がかりで手際良(てぎわよ)く進(すす)めます。「特殊(とくしゅ)メークはサポート役(やく)。『演技(えんぎ)に集中(しゅうちゅう)できた』と役者(やくしゃ)さんに言われたときがうれしい」と江川(えがわ)さん。緻密(ちみつ)な作業(さぎょう)と心遣(こころづか)いの積(つ)み重ねなんですね。

写真
 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索