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知るコレ!

さまざまな形が魅力 雪の結晶

土井利位著(どいとしつらちょ)『雪華図説(せっかずせつ)』

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 みなさんは雪をじっくりと観察(かんさつ)したことがありますか? 目を凝(こ)らすと、さまざまな形の結晶(けっしょう)からなっていることが分かります。今回は歴史(れきし)と気象学(きしょうがく)の両面(りょうめん)から、雪の結晶に注目(ちゅうもく)してみましょう。 (世古紘子(せこひろこ))

 茨城県古河(いばらきけんこが)市にある古河歴史博物館(れきしはくぶつかん)には『雪華図説(せっかずせつ)』という不思議(ふしぎ)な書物(しょもつ)があります。はがきより大きめのページには6個(こ)ずつ、計86種類(しゅるい)もの雪の結晶図(けっしょうず)が年月日や場所(ばしょ)の記録(きろく)とともに載(の)っているのです。

 「これは日本初(はつ)となる雪の結晶の観察図鑑(かんさつずかん)。江戸時代後期(えどじだいこうき)の1832年に出されました。雪の結晶の形が広く知られるきっかけになったんですよ」と説明するのは博物館の学芸員(がくげいいん)、永用俊彦(ながようとしひこ)さん(52)。書いたのは古河藩(はん)(現在(げんざい)の古河市など)の藩主(はんしゅ)、土井利位(どいとしつら)(1789〜1848年)です。8年後には97種類を収(おさ)めた『続(ぞく)雪華図説』も出し、今では「雪の殿様(とのさま)」の名で親しまれています。

 利位は、刈谷(かりや)藩(現在の愛知(あいち)県刈谷市周辺(しゅうへん))藩主の四男として生まれ、25歳(さい)で古河藩主の養子(ようし)になりました。このころから観察を始(はじ)めたことは『雪華図説』の後書きから分かっています。永用さんは「始めた理由(りゆう)は不明(ふめい)です。でも利位は幕府(ばくふ)の要職(ようしょく)を務(つと)めながら30年近く観察を続(つづ)けています。雪の結晶の美(うつく)しさに魅了(みりょう)されたのは間違(まちが)いないでしょう」と推測(すいそく)します。

 でも方法(ほうほう)は? 『雪華図説』によると(1)黒い布(ぬの)を外に出して冷(ひ)やす(2)その布で雪を受(う)ける(3)形を崩(くず)さないように毛抜(けぬ)きでつまみ、黒い漆器(しっき)に入れる(4)息(いき)がかからないように鏡(かがみ)で見る−という手順(てじゅん)。「『鏡』はおそらく顕微鏡(けんびきょう)。1770年代には輸入(ゆにゅう)されており、利位も手にしていたのでは」。当時は今より寒冷(かんれい)で、観察時の気温(きおん)は氷点下(ひょうてんか)10度(ど)ほど。利位は自ら結晶のスケッチもしたといいます。

 利位は結晶を「雪華」と名付(なづ)け、その模様(もよう)を印籠(いんろう)や書状(しょじょう)などにあしらい楽しみました。結晶図は辞典(じてん)や本に載って庶民(しょみん)にも広まり、歌舞伎(かぶき)の舞台衣装(ぶたいいしょう)などにも用いられました。永用さんは「利位は雪の結晶を学問的(がくもんてき)にだけでなく、文化(ぶんか)的にも定着(ていちゃく)させました」と功績(こうせき)をたたえます。

 雪の結晶(けっしょう)は美(うつく)しいだけではありません。「その形や状態(じょうたい)は、上空にある雲の気温(きおん)や水蒸気(すいじょうき)の量(りょう)などを知る手掛(てが)かりになります」と教えてくれたのは気象庁(きしょうちょう)気象研究所(けんきゅうじょ)(茨城県(いばらきけん)つくば市)の研究官(かん)、荒木健太郎(あらきけんたろう)さん(33)。雲が分かればより正確(せいかく)な雪の予測(よそく)につながり、被害(ひがい)を減(へ)らせます。

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 結晶はおなじみの六角形だけでなく砲弾形(ほうだんがた)や針(はり)状、扇(おうぎ)形とさまざま。どんな雲からどんな形ができるかは、室内実験(じっけん)から分かっているといいます=表(ひょう)。

 例(たと)えば樹枝(じゅし)状は氷点下(ひょうてんか)10〜20度(ど)と気温が低(ひく)く、水蒸気量が多いとみられます。反対(はんたい)に針状はより気温が高く、水蒸気量が少ないとき。「複数(ふくすう)の形が混(ま)ざっていれば、雪を降(ふ)らせる雲が何層(なんそう)にもなっているということです」。ほかにも結晶に「雲粒(うんりゅう)」が付(つ)いた状態かどうかも大切な情報(じょうほう)。雲粒は雲をつくる極小(ごくしょう)の水滴(すいてき)を意味(いみ)し、結晶の表面(ひょうめん)に凍(こお)って付いていれば上昇流(じょうしょうりゅう)の強い雲が上空にあるそうです。

 荒木さんは2年前、関東(かんとう)地方で雪が降る仕組(しく)みを調(しら)べようと、スマートフォンなどで撮影(さつえい)した結晶の写真(しゃしん)を募(つの)り始(はじ)めました。用意(ようい)するのは黒っぽい布(ぬの)、大きさを比較(ひかく)するための定規(じょうぎ)や硬貨(こうか)。利位(としつら)と同じように布を冷(ひ)やして雪片(せっぺん)を受(う)け、定規などを近くに置(お)いて最大倍率(さいだいばいりつ)でスマホのカメラで撮影するだけ。「結晶は1ミリから数ミリ。スマホでもきれいに撮(と)れます。気象情報をチェックしてぜひ挑戦(ちょうせん)を」と呼(よ)び掛(か)けています。

 

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