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知るコレ!

風土特有の保存食 なれずし

もはやヨーグルト!? 東宝茶屋(とうほうちゃや)の30年物(もの)のなれずし

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 ご飯(はん)で魚を発酵(はっこう)させる食べ物(もの)の「なれずし」。その一つで「日本最古(さいこ)のおすし」といわれてきた滋賀県(しがけん)の郷土料理(きょうどりょうり)「ふなずし」の歴史見解(れきしけんかい)に大転換(だいてんかん)が起(お)きています。三重(みえ)県ではなれずしで地域(ちいき)おこしをする動(うご)きも。今、なれずしに何が起きているのでしょうか。 (美細津仁志(みさいづひとし))

 「うっ、クサい!」。1月下旬(げじゅん)、滋賀県長浜(しがけんながはま)市内で、ふなずしのたるを開(ひら)いた長浜バイオ大1年の亀田森羅(かめだしんら)さん(20)は、強烈(きょうれつ)な臭(にお)いに顔をしかめました。

 たるは亀田さんが部長(ぶちょう)を務(つと)める学生サークル「琵琶湖研究(びわこけんきゅう)部」が昨年(さくねん)8月に初(はじ)めて仕込(しこ)みました。中のフナ8キロはいよいよ食べ頃(ごろ)を迎(むか)え、学生8人が輪切(わぎ)りにした身(み)を試食(ししょく)。「少し臭いが気になるけど上出来(じょうでき)」「毎日食べれば好(す)きになるかも」と言い合いました。

 なれずしは、魚に米と塩(しお)などを加(くわ)えて発酵(はっこう)させる昔(むかし)ながらの保存食品(ほぞんしょくひん)です。滋賀県では琵琶湖に生息(せいそく)するニゴロブナを丸ごと漬(つ)けるふなずしが有名(ゆうめい)で、漬物(つけもの)のような臭いとヨーグルトのような酸味(さんみ)が特徴(とくちょう)です。オレンジ色の卵(たまご)を持(も)ったメスが喜(よろこ)ばれ、酒(さけ)のおつまみや正月などのめでたい席(せき)で食べられます。最近(さいきん)は県内の小学校でも漬けるなど若(わか)い人が伝統料理(でんとうりょうり)に目を向(む)ける機会(きかい)が増(ふ)えています。

 新たな研究も進(すす)んでいます。昨年6月、さまざまな分野の最近の研究が「再考(さいこう)ふなずしの歴史(れきし)」という1冊(さつ)の本にまとめられました。編集(へんしゅう)に携(たずさ)わった琵琶湖博物館(はくぶつかん)(滋賀県草津(くさつ)市)の学芸員橋本道範(がくげいいんはしもとみちのり)さん(52)は「ふなずしの歴史が180度変(どか)わりました」と話します。

 長年、ふなずしは「日本最古のおすし」といわれてきました。なれずしの中でも特に作り方がシンプル。そんな特徴を基(もと)に、1966年に発表(はっぴょう)された学術書(がくじゅつしょ)に「すべてのすし類(るい)の出発(しゅっぱつ)点」と紹介(しょうかい)され、ふなずしから全国(ぜんこく)にすしが広まったと考えられたのです。

 一方、郷土(きょうど)ずしの研究家、日比野光敏(ひびのてるとし)さん(57)は93年、「今のふなずしは古代(こだい)の製法(せいほう)を残(のこ)していない」と反論(はんろん)。漬け始(はじ)める季節(きせつ)が今は夏ですが、江戸(えど)時代の料理のレシピ本に冬とあったためです。

 2014年、日比野さんや歴史研究者(しゃ)が一堂(いちどう)に会し、室町(むろまち)や江戸時代の文献(ぶんけん)を再検証(さいけんしょう)したところ日比野説(せつ)が裏付(うらづ)けられました。さらに、漬ける期間(きかん)と容器(ようき)などにも江戸時代前と現代(げんだい)で新たに違(ちが)いが見つかりました。

 橋本さんたちは、今のふなずしは日本最古ではなく、江戸時代に琵琶湖周辺(しゅうへん)で独自(どくじ)に発達(はったつ)したなれずしで、今も漬け方や作り方に多様(たよう)さを持っている−と結論(けつろん)づけました。「まだまだ分からないことだらけ。それもふなずしの魅力(みりょく)です」と話します。

 三重県最南部(みえけんさいなんぶ)の熊野川流域(くまのがわりゅういき)では、サバやサンマを使(つか)ったなれずしが知られています。山あいの紀宝(きほう)町浅里地区(あさりちく)では、住民(じゅうみん)たちが1月から一般向(いっぱんむ)けに販売(はんばい)を始(はじ)めました。2011年の紀伊半島豪雨(きいはんとうごうう)で被害(ひがい)を受(う)け、地区の住民の3割(わり)が区外へ転出(てんしゅつ)。高齢化(こうれいか)の進(すす)む地区に活気を取(と)り戻(もど)そうと加工場(かこうじょう)を造(つく)ったのです。木下起査央(きのしたきさお)区長(68)は「なれずしは地域の復興(ふっこう)の原動力(げんどうりょく)。頑張(がんば)っているとアピールしていきたい」と期待(きたい)します。

 対岸(たいがん)の和歌山(わかやま)県新宮(しんぐう)市のすし店「東宝茶屋(とうほうちゃや)」では、何と30年以上(いじょう)も寝(ね)かせたサンマのなれずしを提供(ていきょう)しています。長期間(ちょうきかん)の発酵(はっこう)により、もはや見た目はヨーグルト。外国人旅行者(りょこうしゃ)にも人気が高いです。

 三重県内のなれずしを調(しら)べ上げた成田美代(なりたみよ)・三重大名誉教授(めいよきょうじゅ)(食物(しょくもつ)学)は「日本にはそれぞれの土地や風土にちなんだ特徴的(とくちょうてき)ななれずしがあります。調べると新しい発見(はっけん)やドラマがあるかもしれません」と話しています。

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