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知るコレ!

水中のDNAで魚探す

魚の種類(しゅるい)を特定(とくてい)する実験(じっけん)で、水槽(すいそう)の水をくむ研究者(けんきゅうしゃ)(手前)=沖縄県(おきなわけん)の美(ちゅ)ら海水族館(すいぞくかん)で(龍谷(りゅうこく)大講師(こうし)の丸山敦(まるやまあつし)さんの提供(ていきょう))

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 海や川、湖(みずうみ)、池などでバケツ1杯(ぱい)ほどの水をくみさえすれば、どんな魚が、どこに、どれだけいるかが分析(ぶんせき)できる−。そんな驚(おどろ)きの新技術(ぎじゅつ)が近年、日本の研究者(けんきゅうしゃ)を中心に開発(かいはつ)され、注目(ちゅうもく)を集(あつ)めています。仕組(しく)みを調(しら)べてみました。 (世古紘子(せこひろこ))

〔1〕1リットルの水

 長野県(ながのけん)から愛知(あいち)県の三河湾(みかわわん)まで流(なが)れる全長(ぜんちょう)118キロの矢作川(やはぎがわ)。龍谷(りゅうこく)大理工学部(がくぶ)(滋賀(しが)県大津(おおつ)市)講師(こうし)の山中裕樹(やまなかひろき)さん(37)は2014年3月から1年間、この川にアユがいるかを調(しら)べました。調査道具(ちょうさどうぐ)は網(あみ)や釣(つ)り具ではなく、ペットボトルのような形の容器(ようき)。方法(ほうほう)は、源流(げんりゅう)から河口(かこう)まで計29地点で毎月1回、1リットルずつ水をくんだだけです。

 「新技術(ぎじゅつ)では、水中にアユのDNA(ディーエヌエー)があるかを調べます」と山中さん。川の水を手ですくっても何もないように見えます。でも実(じつ)は、魚のDNAを含(ふく)む体表(たいひょう)の粘液(ねんえき)やふんなどが浮(う)かんでいるのです。

 DNAは人間も含め、どの生き物(もの)も持(も)っている化学物質(かがくぶっしつ)。姿形(すがたかたち)などを決定(けってい)し、魚でも種類(しゅるい)によって異(こと)なります。山中さんは「科学捜査(そうさ)に例(たと)えれば指紋(しもん)のようなもの。検出(けんしゅつ)できれば、その生き物がそこにいたという証拠(しょうこ)になるのです」と説明(せつめい)します。

 集(あつ)めた水はまず、髪(かみ)の毛の太さの100分の1ほどの穴(あな)が開(あ)いたろ紙でこします。さまざまな魚が放(はな)った体表の粘液やふんなどが残(のこ)り、そこに試薬(しやく)を加(くわ)えるとDNAだけが抜(ぬ)き出されます。その後、アユのDNAのみを増(ふ)やす人工物(じんこうぶつ)を混(ま)ぜ、特殊(とくしゅ)な機器(きき)で観察(かんさつ)。アユのDNAが増えれば、水を採(と)った地点にアユがいたと確認(かくにん)できるのです。

〔2〕研究利点

 矢作川(やはぎがわ)の調査結果(ちょうさけっか)は? 山中(やまなか)さんは「アユがいるか、水の分析(ぶんせき)ではっきり確認(かくにん)できました」と言います。3月になかったアユのDNA(ディーエヌエー)は4月以降(いこう)、下流(かりゅう)から上流に向(む)けた地点で次々(つぎつぎ)と検出(けんしゅつ)されました。海で育(そだ)ったアユの稚魚(ちぎょ)が川に上がってくる時期(じき)とピッタリ一致(いっち)していました。

 水中に漂(ただよ)う魚のDNAを分析するというアイデアは2008年、京都(きょうと)市内の研究所(けんきゅうじょ)でコイの病気(びょうき)を調(しら)べていた神戸(こうべ)大特命助教(とくめいじょきょう)の源利文(みなもととしふみ)さんと山中さんが考え付(つ)きました。現在(げんざい)は龍谷(りゅうこく)大や神戸大を含(ふく)む多くの機関(きかん)が研究チームを組み、力を注(そそ)いでいます。

 研究は主(おも)に3つの方向(ほうこう)で進(すす)められています。水中のDNAから、(1)矢作川のように特定(とくてい)の魚などの有無(うむ)を調べる(2)量(りょう)を推定(すいてい)する(3)種類(しゅるい)を一度(いちど)に知る−です。(1)はアユ以外(いがい)の魚やオオサンショウウオ、ニホンザリガニなども含め30種近くを調べられるといいます。

 利点(りてん)は従来(じゅうらい)の方法(ほうほう)より手間と時間を省(はぶ)けることです。今までは網(あみ)やたもで探(さが)して魚を捕(つか)まえ、専門家(せんもんか)が種類を判別(はんべつ)して何日もかかりました。新技術(ぎじゅつ)は水を数リットルくむだけ。山中さんによると、龍谷大に近い琵琶湖(びわこ)でバスの有無を調べる場合、一日で分析まで終(お)わるといいます。特に希少生物(きしょうせいぶつ)の調査では、生き物(もの)を捕まえて傷(きず)つけたり生息環境(せいそくかんきょう)を壊(こわ)したりする可能性(かのうせい)も低(ひく)くなります。

〔3〕川や海で

 量(りょう)((2))と種類(しゅるい)((3))の研究(けんきゅう)も成果(せいか)が上がっています。研究チームは2014年、京都府(きょうとふ)の舞鶴湾(まいづるわん)で水中に漂(ただよ)うマアジのDNA(ディーエヌエー)量と、実際(じっさい)のマアジ量の関係(かんけい)を探(さぐ)りました。まず湾内47地点の水を1リットルずつ採(と)ってDNA量を分析(ぶんせき)し、魚群探知機(ぎょぐんたんちき)で調(しら)べた各(かく)地点のマアジ量と比較(ひかく)。チーム代表(だいひょう)で、龍谷(りゅうこく)大理工学部教授(がくぶきょうじゅ)の近藤倫生(こんどうみちお)さん(43)は「DNA量が多かった地点から150メートル以内(いない)に、確(たし)かにマアジが多くいると分かったのです」と説明(せつめい)します。

 魚の種類を一度(いちど)に調べる実験(じっけん)は同じ年、沖縄県(おきなわけん)の美(ちゅ)ら海水族館(すいぞくかん)でありました。方法(ほうほう)は(1)や(2)と少し異(こと)なり、複雑(ふくざつ)です。まず4つの水槽(すいそう)から2〜10リットルの水をくみ、含(ふく)まれるすべてのDNAを特殊機器(とくしゅきき)で読み取(と)ります。その際(さい)、魚種を決(き)めているDNAの“違(ちが)い”に注目(ちゅうもく)。約(やく)5000種の魚種別(べつ)に違いを記録(きろく)したデータベースと照合(しょうごう)し、種類を一挙(いっきょ)に調べ上げます。結果(けっか)は水槽にいる180種類中、9割(わり)の168種類を判定(はんてい)できました。

 新技術(ぎじゅつ)は既(すで)に、工事(こうじ)が環境(かんきょう)に与(あた)える影響(えいきょう)を測(はか)る環境アセスメントで使(つか)われ始(はじ)めています。近藤さんは「専門家(せんもんか)がいなくても誰(だれ)でも簡単(かんたん)にできます。いつか全国(ぜんこく)の小中学生に近くの海や川の水をくんでもらい、大規模(だいきぼ)な生き物調査(ものちょうさ)をしてみたいですね」と話しています。

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