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知るコレ!

景色が違う!?股のぞき

展望(てんぼう)台で股のぞきをして、天橋立を見る子どもたち=京都府宮津(きょうとふみやづ)市で

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 前かがみになって、両脚(りょうあし)の間から後ろ向(む)きに光景(こうけい)を見る「股(また)のぞき」。昔(むかし)から、光景の上下左右が逆転(ぎゃくてん)するだけでなく、普段(ふだん)と違(ちが)ったように見えるといわれてきました。でも一体なぜ? 日本の研究者(けんきゅうしゃ)がこの謎(なぞ)に迫(せま)り、今年、ユーモアあふれる研究に贈(おく)られる「イグ・ノーベル賞(しょう)」知覚(ちかく)賞を受(う)けました。どんな研究なのでしょうか。 (世古紘子(せこひろこ))

〔1〕天橋立で

 京都府宮津(きょうとふみやづ)市にある日本三景(さんけい)の一つ、天橋立(あまのはしだて)。松林(まつばやし)が茂(しげ)る砂州(さす)が海に横(よこ)たわり、美(うつく)しい景観(けいかん)をつくり出しています。近くの天橋立ビューランド展望(てんぼう)台では、股(また)のぞきが昔(むかし)から人気。子どもからお年寄(としよ)りまでが専用(せんよう)台に上がり、逆(さか)さになった天橋立を楽しみます。初挑戦(はつちょうせん)した神奈川県藤沢(かながわけんふじさわ)市の小学六年生、朝比奈南海(あさひなみなみ)さん(11)は「何だか景色(けしき)が小さく見える」と不思議(ふしぎ)がります。

 股のぞきをすると、光景が違(ちが)うように見えることは国内外で指摘(してき)されてきました。今回、知覚賞(ちかくしょう)に輝(かがや)いた立命館(りつめいかん)大文学部(ぶんがくぶ)(京都市)の東山篤規教授(ひがしやまあつききょうじゅ)(65)=実験(じっけん)心理学=は「少しずつ表現(ひょうげん)は違いますが、さまざまな人が記述(きじゅつ)を残(のこ)しています」と説明(せつめい)します。

 例(たと)えば、ドイツ出身(しゅっしん)で十九世紀(せいき)の生理学者(せいりがくしゃ)・物理(ぶつり)学者のヘルムホルツは「股の間から風景を観察(かんさつ)すれば平面(へいめん)図のように見える」と記しています。東北(とうほく)大名誉(めいよ)教授の故(こ)・宮川知彰(みやかわともあき)さんは約(やく)七十年前、距離(きょり)や大きさの捉(とら)え方が不正確(ふせいかく)になると論文(ろんぶん)で発表(はっぴょう)しました。

 文学にも登場(とうじょう)します。アメリカの作家ワシントン・アービングは十九世紀前半にスコットランドを訪(おとず)れた際(さい)、股のぞきを勧(すす)める男に会い、寺院(じいん)が「全(まった)く異(こと)なる様相(ようそう)に見えると彼(かれ)は言う」と訪問(ほうもん)記に書いています。股のぞきで見える光景は今も昔も、人々を魅了(みりょう)してきたようです。

〔2〕実験では

 股(また)のぞきをすると実際(じっさい)、どのように見えるのでしょうか。東山教授(ひがしやまきょうじゅ)は一九九〇年代(ねんだい)に学生三十人の協力(きょうりょく)を得(え)て実験(じっけん)に臨(のぞ)みました。普通(ふつう)に直立で見た時と股のぞきで見た時で、物(もの)の大きさや距離(きょり)の印象(いんしょう)が異(こと)なるかを観察(かんさつ)したのです。

 用意(ようい)したのは高さが異なる五つの赤い三角形。それぞれを観察者(しゃ)から二・五〜四十五メートルの五地点に順(じゅん)に置(お)いていきます。観察者は十五人ずつ直立グループと股のぞきグループに分かれ、「三角形の高さは?」「三角形までの距離は何メートル?」との問(と)いに答えました。結果(けっか)は、直立グループはどの地点も正確(せいかく)に三角形の高さが分かりました。距離も近いものは近く遠いものは遠くに見え、東山教授は「物の大きさや距離の見え方に変化(へんか)はなかった」と明かします。

 一方、股のぞきグループは高さ百六十二センチの三角形が遠くでは約(やく)八十センチに見えるなど「特(とく)に遠くのものが小さく見えることが分かりました」。距離も、遠くにある三角形が実際より手前にあるように見えていました。

 東山教授は実験から「股のぞきをすると遠くの物が小さく見える。物と物の奥行(おくゆ)きが狭(せば)まり奥行き感(かん)が不明瞭(ふめいりょう)になる」と結論(けつろん)。特有(とくゆう)の見え方を「股のぞき効果(こうか)」としました。

〔3〕逆さ眼鏡

 でもなぜ、股(また)のぞきをすると違(ちが)って見えるのでしょうか。実(じつ)は昔(むかし)から主(おも)に二通りの説明(せつめい)がされてきました。一つは目の奥(おく)にある網膜(もうまく)に映(うつ)る像(ぞう)が逆転(ぎゃくてん)するから。もう一つは上半身(じょうはんしん)自体が逆転するからです。

 どちらが正しいかを確(たし)かめるため、東山教授(ひがしやまきょうじゅ)はさらに二つの実験(じっけん)をしました。使(つか)ったのは光景(こうけい)が一八〇度(ど)回転して見える「逆(さか)さ眼鏡(めがね)」です。

 一つ目の実験では逆さ眼鏡をかけて直立したまま三角形を見ます。二つ目では逆さ眼鏡をかけて股のぞきをして三角形を確認(かくにん)。この場合、逆さ眼鏡に映る光景は直立して見ている時と同じです。

 結果(けっか)、逆さ眼鏡をして股のぞきをした時のみ、股のぞき効果(こうか)が確認されました。つまり、網膜ではなく、上半身が上下逆転することが原因(げんいん)だと分かったのです。

 東山教授によると人間は小さいころから頭を真(ま)っすぐにして見ることを学習(がくしゅう)するといいます。「股のぞきをするといつもの姿勢(しせい)が崩(くず)れ、大きさや奥行きが普段(ふだん)通り見えなくなるのでは」と解説(かいせつ)します。

 今まで詳(くわ)しく解明されてこなかった股のぞき。床(ゆか)に寝転(ねころ)がると物(もの)の見え方が変(か)わるかなども研究(けんきゅう)してきた東山教授は「誰(だれ)も知らないことを調(しら)べるのはとっても愉快(ゆかい)。役(やく)に立たないことは世(よ)の中には一つもありません。自分が面白(おもしろ)いと思ったことを考えてみて」と呼(よ)び掛(か)けています。

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