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知るコレ!

暮らしを支える通訳

ポルトガル語を交えて、日本語を教える本多(ほんだ)アケミさん(左)=静岡県浜松(しずおかけんはままつ)市の葵(あおい)が丘(おか)小学校で

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 いまは国際化(こくさいか)の時代(じだい)といわれます。日本から海外へ進出(しんしゅつ)するのと同じく、海外から日本に来て住(す)む人も増(ふ)えています。そこで直面(ちょくめん)するのが、言葉(ことば)の壁(かべ)。学校や病院(びょういん)など、ふだんの暮(く)らしの中で橋渡(はしわた)しをする通訳(つうやく)の役割(やくわり)に注目(ちゅうもく)しました。 (古池康司(こいけこうじ))

〔1〕小学校で

 静岡県浜松(しずおかけんはままつ)市中区(く)の葵(あおい)が丘(おか)小学校にやって来ました。ブラジル人の6年生の男の子と向(む)き合い、日本語を教えている女性(じょせい)がいます。文字を指(ゆび)さしながら「20日は?」「はつか」「20歳(さい)は?」「はたち」。二人三脚(ににんさんきゃく)で日本語の練習(れんしゅう)を重(かさ)ねていました。

 同校で外国人の学習(がくしゅう)をサポートする支援員(しえんいん)の本多(ほんだ)アケミさん(36)です。もともと日本からブラジルに渡(わた)った日系(にっけい)ブラジル人の3世(せい)。小学6年の時に来日して以来(いらい)、浜松で暮(く)らし、ブラジルで使(つか)われるポルトガル語と日本語を話します。

 国の統計(とうけい)によると、浜松市内には約(やく)2万2000人の外国人が住(す)み、このうち約9000人がブラジル人です。学校に通う子どもも多く、市教育委員会(きょういくいいんかい)は2005年から市内の学校にポルトガル語の支援員を配置(はいち)しています。

 ブラジルの保護者(ほごしゃ)から見ると、日本の学校は給食(きゅうしょく)や掃除(そうじ)、ランドセルの着用(ちゃくよう)などで規則(きそく)がたくさんあって戸惑(とまど)うことも多いそうです。本多さんは、言葉(ことば)だけでなく、こうした文化(ぶんか)の違(ちが)いの橋渡(はしわた)しをして支(ささ)えることも重要(じゅうよう)な役割(やくわり)だと感(かん)じています。

 子どもにとっては、学校は日本社会の入り口です。「どうして日本語を勉強(べんきょう)するの?」。そんな質問(しつもん)を子どもから受(う)けることもある本多さんは「社会に出て、自分の力で生きていくためだよ」とアドバイス。言葉の壁(かべ)を越(こ)えて、学校生活を楽しく過(す)ごしてほしいと願(ねが)っています。

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〔2〕病院派遣

 日本では経済(けいざい)の力が強くなった1980年代(ねんだい)後半から、働(はたら)きに来る外国人が増(ふ)えました。

 国の統計(とうけい)によると、永住(えいじゅう)や留学(りゅうがく)などで日本に暮(く)らす在留(ざいりゅう)外国人の数は、2015年末(まつ)で約(やく)223万人。世界中(せかいじゅう)が不況(ふきょう)になった08年の後に減(へ)った時期(じき)がありましたが、再(ふたた)び増えてきました。

 国・地域別(ちいきべつ)では中国(ちゅうごく)が約66万人で3割(わり)近くを占(し)めます。韓国(かんこく)、フィリピン、ブラジル、ベトナムと続(つづ)き、最近(さいきん)は特(とく)にベトナムが増えています。都道府県(とどうふけん)別では東京(とうきょう)が20%で大阪(おおさか)、愛知(あいち)がともに9%ほどで都市部(としぶ)に多く住(す)んでいます。

 外国人の増加(ぞうか)に合わせて、学校のほかにもさまざまな場面(ばめん)で、言葉(ことば)の壁(かべ)が問題(もんだい)になっています。例(たと)えば病院(びょういん)。どこがどのように痛(いた)いのかといった症状(しょうじょう)を伝(つた)えられないと、うまく診断(しんだん)してもらえません。病気の具合(ぐあい)や治療法(ちりょうほう)を患者(かんじゃ)が理解(りかい)できないこともあります。

 愛知県は12年から、通訳(つうやく)を病院に派遣(はけん)する制度(せいど)を開始(かいし)。ポルトガルや中国など、5カ国語の250人を登録(とうろく)しています。名古屋(なごや)大医学部付属(いがくぶふぞく)病院でポルトガル語の通訳をする松下順子(まつしたじゅんこ)さん(43)は、ノートにあらかじめ難(むずか)しい病名などの単語(たんご)を書き込(こ)み、予習(よしゅう)をして臨(のぞ)んでいます。看護師(かんごし)らの言葉をすぐさまブラジル人患者に翻訳(ほんやく)する一方、待(ま)ち時間には雑談(ざつだん)をしながら、付(つ)き添(そ)っていました。

〔3〕認定制度

 こうした暮(く)らしの中の通訳(つうやく)のことを「コミュニティー通訳」といい、移民(いみん)の多いアメリカやオーストラリアで整備(せいび)が進(すす)みました。ただ、コミュニティー通訳に詳(くわ)しい金城学院(きんじょうがくいん)大の水野真木子教授(みずのまきこきょうじゅ)によれば、日本では必要(ひつよう)だという認識(にんしき)は、まだあまり高くないそうです。

 最近(さいきん)、法廷(ほうてい)での通訳が正確(せいかく)ではないとして、その内容(ないよう)を確認(かくにん)し直したことがあり、通訳の力量(りきりょう)を保証(ほしょう)する仕組(しく)みがないことが話題(わだい)になりました。スリランカ人の弁護(べんご)をしたことがある愛知県弁護士会(あいちけんべんごしかい)の弁護士、金井正成(かないまさしげ)さん(48)は「きちんと通訳できているのか判断(はんだん)するのは難(むずか)しい」と話します。

 裁判(さいばん)では、ちょっとしたニュアンスの違(ちが)いが有罪(ゆうざい)・無罪(むざい)や刑(けい)の重(おも)さにかかわります。通訳には法律(ほうりつ)の理解(りかい)や公平性(こうへいせい)も求(もと)められます。水野教授は、通訳の認定制度(にんていせいど)を提案(ていあん)します。

 2020年に東京五輪(とうきょうごりん)があり、日本はますます国際化(こくさいか)するでしょう。言葉(ことば)の誤解(ごかい)から、日本と外国の人々が対立(たいりつ)するより、互(たが)いに住(す)みよい社会にしたいですよね。水野教授は「外国人は違うようにみえても、コミュニケーションをとれば誤解をとけるし、仲良(なかよ)くなれる」と考えます。そして、国際化の時代(じだい)を生きるみなさんには「自分と相手(あいて)の違いを分かった上で、自分の言葉で伝(つた)えられる人間になろう」と話します。

 

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