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知るコレ!

世界に広がる母子手帳

1948年当時の母子手帳(ぼしてちょう)。全(ぜん)20ページのうち、6ページは配給(はいきゅう)に関(かん)するものでした

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 これからお母さんになる人が市町村からもらう「母子健康手帳(ぼしけんこうてちょう)」。栄養不足(えいようぶそく)などで多くの赤ちゃんが命(いのち)を落(お)としていた約(やく)70年前の日本で作られました。手帳には医療(いりょう)に必要(ひつよう)な記録(きろく)だけでなく、両親(りょうしん)がメッセージを書く欄(らん)も。近年は未来(みらい)を担(にな)う子どもたちへの「贈(おく)り物(もの)」として、世界(せかい)にも広がっています。 (川合道子(かわいみちこ))

〔1〕成長記録

 みんなは、自分が生まれたときの身長(しんちょう)や体重(たいじゅう)が言えますか? 分からないという人は、家に保管(ほかん)されている母子健康手帳(ぼしけんこうてちょう)(母子手帳)を見せてもらうと、簡単(かんたん)に確(たし)かめることができます。

 手帳には、お母さんのおなかにいたころや、生まれたときから主(おも)に6歳(さい)までの成長(せいちょう)、健診(けんしん)や予防接種(よぼうせっしゅ)の記録(きろく)などがまとめられています。新しく病院(びょういん)にかかる場合でも、医師(いし)に正確(せいかく)な情報(じょうほう)を伝(つた)えられます。

 母子手帳は戦争(せんそう)が終(お)わって間もない1948(昭和(しょうわ)23)年に作られました。基(もと)になったのが、戦時中に配布(はいふ)された「妊産婦(にんさんぷ)手帳」です。物資(ぶっし)が乏(とぼ)しかったため、おなかに赤ちゃんがいる妊婦は、米や牛乳(ぎゅうにゅう)、砂糖(さとう)などを特別(とくべつ)に配給(はいきゅう)してもらうことができました。

 戦争が終わっても、栄養失調(えいようしっちょう)や病気で命(いのち)を落(お)とす子どもが後を絶(た)ちませんでした。国の統計(とうけい)によると、48年に1歳未満(みまん)で亡(な)くなる赤ちゃんの割合(わりあい)は1000人のうち61人と、2015年の約(やく)30倍(ばい)もありました。

 妊婦に加(くわ)え、子どもの健康も守(まも)ろうと生まれたのが母子手帳です。医療(いりょう)に必要(ひつよう)な記録だけでなく、出産や育児(いくじ)で気を付(つ)けることなどが盛(も)り込(こ)まれました。

 手帳が普及(ふきゅう)するとともに、子どもの死亡率(しぼうりつ)は激減(げきげん)しました。医療技術(ぎじゅつ)の向上(こうじょう)も一因(いちいん)ですが、大阪(おおさか)大教授(きょうじゅ)で小児科医(しょうにかい)の中村安秀(なかむらやすひで)さん(64)は「知識(ちしき)が増(ふ)えて適切(てきせつ)に行動(こうどう)することが、命を守ることにもつながるのです」と話します。

〔2〕日本独自

 世界(せかい)の多くの国は、妊婦健診(にんぷけんしん)や子どもの予防接種(よぼうせっしゅ)の記録(きろく)などを別々(べつべつ)に管理(かんり)しています。中村(なかむら)さんは「お母さんと子どもの健康(けんこう)記録を1冊(さつ)にまとめた母子手帳(ぼしてちょう)は、日本独自(どくじ)の便利(べんり)なシステム」と説明(せつめい)します。

 この日本生まれの母子手帳を取(と)り入れる国が、子どもの死亡率(しぼうりつ)が高いアジアやアフリカを中心に増(ふ)えています。今はインドネシアやタイ、ケニアなど39の国と地域(ちいき)に広がりました。

 中村さんは、世界の人々の健康を守(まも)る活動(かつどう)をするNPO法人(エヌピーオーほうじん)「HANDS(ハンズ)」の代表理事(だいひょうりじ)も務(つと)め、国際協力機構(こくさいきょうりょくきこう)(JICA(ジャイカ))などと各国(かっこく)の手帳作りを支(ささ)えています。

 心掛(こころが)けているのが「日本の母子手帳の翻訳(ほんやく)をしないこと」。例(たと)えばインドネシアでは、保健師(ほけんし)が使(つか)い慣(な)れていた体重表(たいじゅうひょう)のカードを、そのまま取り入れました。別のグラフに変(か)えてしまえば、現地(げんち)の人たちは書き方を覚(おぼ)えなければいけません。

 「国や地域の文化(ぶんか)、習慣(しゅうかん)に合った手帳にすることが大切」と中村さん。タイでは妊娠(にんしん)から出産(しゅっさん)までに気を付(つ)けることをすごろくで紹介(しょうかい)。アメリカのユタ州(しゅう)では子どもの成長(せいちょう)を写真(しゃしん)とメッセージで残(のこ)すアルバムのような手帳が完成(かんせい)しました。

 長い間紛争(ふんそう)が続(つづ)くパレスチナでは、かかりつけの病院(びょういん)へ行く道が突然封鎖(とつぜんふうさ)され、別の病院を転々(てんてん)とすることも。母子の記録がつまった1冊は、「命(いのち)のパスポート」とも呼(よ)ばれています。

〔3〕続く進化

 日本では、1991年から市町村がそれぞれの母子手帳(ぼしてちょう)を使(つか)うことができるようになりました。

 愛知県小牧(あいちけんこまき)市は、99年に手帳の対象年齢(たいしょうねんれい)を「15歳(さい)まで」にしました。2003年には父親が育児(いくじ)に参加(さんか)することを意識(いしき)して、全国(ぜんこく)で初(はじ)めて「親子健康(けんこう)手帳」と呼(よ)ぶようにしました。

 手帳には成長(せいちょう)の中で気づいたことを記す「お父さん・お母さんからのメッセージ」欄(らん)がたくさん設(もう)けられています。病気(びょうき)で亡(な)くなる子どもは減(へ)りましたが、いじめによる自殺(じさつ)や虐待(ぎゃくたい)といった事件(じけん)はなくなりません。

 「子どもが『自分は大切な存在(そんざい)なんだ』と感(かん)じるきっかけに」と市保健(ほけん)センターの岡本弥生(おかもとやよい)さん(44)。親子健康手帳は茨城(いばらき)や沖縄(おきなわ)県にも広がりました。

 最近(さいきん)は、スマートフォンやタブレット端末(たんまつ)に記録(きろく)を残(のこ)す「電子母子手帳」を取(と)り入れるまちもあります。きっかけは5年前の東日本大震災(だいしんさい)。津波(つなみ)によって多くの手帳が失(うしな)われました。

 岐阜(ぎふ)県可児(かに)市は従来(じゅうらい)の手帳に加(くわ)え、4月から「かにっ子ナビ」というサービスを開始(かいし)。登録(とうろく)すると、子どもの月齢(げつれい)に応(おう)じた情報(じょうほう)などをスマートフォンで確認(かくにん)したり、予防接種(よぼうせっしゅ)や成長の記録を残したりできます。

 時代(じだい)とともに進化(しんか)し続(つづ)ける母子手帳。「世界(せかい)のどの国に生まれても、自分の身長(しんちょう)や体重(たいじゅう)を答えられることが健康への第(だい)一歩」と中村(なかむら)さん。形は違(ちが)っても、子どもたちへの「贈(おく)り物(もの)」になることは間違(まちが)いありません。

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