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試練のとき

ライフネット生命保険 出口治明会長(69) (下)

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◆顧客目線 選択・集中で支持

 年間五千人。インターネットで生命保険を販売するライフネット生命保険会長の出口治明(はるあき)(69)が、各地の講演で出会う人の数だ。

 「休日のゴルフや夜の宴会の代わりに、講演で保険の仕組みを説明しています」。ウェブサイトが唯一の「店舗」の同社。ネットでの取引は顔が見えないという弱点を補うため、出口は十人以上が参加する勉強会の依頼があれば、可能な限り足を運ぶ。

 二〇〇六年。若い投資家らとの偶然の出会いをきっかけに、大手の日本生命保険で働いた知見を生かし起業を決意。監督する金融庁の免許を得るため同年秋、二年の期限付きの準備会社を設立した。

 初めて金融庁に出向いた日はどしゃぶりの雨。「これ以上、天気が悪くなることはないし、幸先がよいな」。前向きに捉えた出口は、現社長の岩瀬大輔(41)や、知人で保険のリスク分析の専門家と、三人で開業に向けた申請書や約款作りに没頭する。

 毎週、金融庁に出向き、担当者と約款を一行ずつ突き合わせながら、分厚い申請書類を作り上げた。並行して資金集めにも奔走。日本人が払う生命保険は年間四十兆円と巨大な市場で参入の余地があり、分かりやすく安い生保の潜在的なニーズがあることなどを説明。賛同した銀行や大手商社などが百億円超を出資してくれた。

 ライフネットが誕生したのは出口が六十歳の時。戦後初の独立系生保会社の誕生に、記者会見には百人を超すメディアが集まった。

 「安心して赤ちゃんを産んでもらうために、二十〜四十代の子育て世代の保険料を半額にする」。ライフネットを立ち上げた出口の思いはこの言葉に集約される。だが、格安の保険料に「もらえる保険金も半額になるのでは」と疑問の声も寄せられた。

 「大手と差別化するには、徹底した情報開示が必要だ」。そう考えた出口は、業界で初めて販売する保険の原価の開示に踏み切り、他社に衝撃を与えた。

 保険商品も車や衣料品などと同じく、原価の上に人件費や支店の家賃など会社の運営費が上乗せされている。「保険外交員や支店網がないネットでの販売だからこそ、安く保険を販売できる」と、出口は強調する。

 さらに「超低金利時代に貯蓄型の保険はそぐわない」と掛け捨て型の保険に特化。働く人が電話しやすいように、本社に設けたコールセンターも平日夜十時まで開設するなど、顧客目線の「選択と集中」を続け、支持につなげた。

 年間約百億円を売り上げる企業に育ったライフネットは来年、創業十年の節目を迎える。今年の正月にじっくりと自身の進退を考えた出口は、六月の株主総会後に会長職を退くことを決めた。「社長の岩瀬や、若い三十代の取締役が経営した方がいいでしょう。取締役を退いた後は、創業者として後ろから応援します」。さわやかな笑顔で言い切った。(敬称略)

 (池内琢)

◆インタビューを終えて

 「故郷と言えば、美杉の雲出川を思い出しますね」。ライフネット生命の本社で、懐かしそうに話す出口さん。上野高校を卒業して京都大法学部に入学するまで三重県で過ごした。読書家で保険の他に世界史や教養についての著作も多い。少子高齢化が進む中、安心して子育てができる環境づくりは急務だ。「子育て世代の保険料を半額に」。国力を維持するためにも、出口さんの着眼が示唆するものは大きい。

 <ライフネット生命保険> 2008年に創業。本社は東京都千代田区麹町。開業時に約50人だった従業員は現在140人ほどに。保険の契約件数は計23万9815件(3月末現在)。東証マザーズ上場。定年を設けない独自の人事制度も特長だ。

 

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