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試練のとき

ライフネット生命保険 出口治明会長(68) (上)

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◆ネットで半額、業界に風穴

 インターネットで生命保険を販売するライフネット生命保険(東京)。二〇〇八年に起業した出口治明会長(68)は、津市美杉町の生まれ。「子育て世代のために、保険料を半額に」。戦後初めて、大手などと関連がない独立系の保険会社をつくった経営者に、業界に風穴をあけた創業のエピソードと理念を聞いた。

 一本の電話が物語の始まりだった。「知人が保険業界に詳しい人を探しているんだ。ちょっと話をしてやってくれないか」

 〇六年三月。日本生命保険(大阪市)の関連のビル管理会社で働いていた出口に、古い友人から相談があった。出口は、待ち合わせた東京・六本木のホテルでくだんの投資家と会い、二十分ほど保険の仕組みを説明したのを覚えている。

 「こんなに詳しい人は初めて。新しい保険会社をつくりましょうよ」。そう話す投資家に素朴な好感を抱いた出口はその場で快諾する。パートナーとして紹介されたのが、現社長の岩瀬大輔(41)。当時、米ハーバード大に留学中だった三十歳の岩瀬の率直な人柄に触れ、退職を決意。定年後は在職中に手伝っていた東京大で仕事をしよう−。描いていたビジョンは、偶然の出会いが変えた。

 「保険業界に入ったのも完璧な偶然ですから」。そう振り返る出口は、偶然がもたらす必然を信じる一人。武家の庭園で有名な北畠神社にほど近い津市美杉町下多気で生まれ、少年時代は雲出川が遊び場だった。「川の流れに流されて生きよう」。そんな人生哲学を抱き、進学した京都大で弁護士を志したが、司法試験に失敗。日本生命を選んだのは、念のために受験した入社試験にたまたま受かったからだった。

 その後のキャリアも異色だった。経営企画や大蔵省(現・財務省)担当、国際部門などが長く、主流の生命保険の営業の経験は少ない。だが、それが業界の常識にとらわれない発想を生む。二〇〇〇年ごろには、インターネット上で株を売買したり、自動車保険を販売する形態が普及し始め、出口は動向を注視していた。

 住宅に次いで高額な商品とされる生命保険。国内の市場規模は約四十兆円と巨大。月額一万円超の保険料が普通で、顧客の信頼を得るため保険外交員が営業するスタイルが当たり前だった。

 破綻すれば社会が混乱するため、生保業界への新規参入には金融庁の厳格な審査と免許が必要だ。ハードルの高さから戦後、独立系で参入した社はこれまでにない。だが、日本生命時代に手ごろな保険の販売を模索していた出口。「独力で会社をつくり、インターネットを活用して生命保険料を半額にしよう」。固まりつつあったアイデアは、若い起業家の相棒との出会いで急速に具現化することになる。(敬称略)

 (池内琢)

 

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