トップ > 特集・連載 > 長寿しなの 彩食記 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

長寿しなの 彩食記

<第8部 これも食べるよ> (5)ジビエ 

ジビエ料理に腕をふるう藤木さん。「ジビエは新しい食のジャンルになる」と話す=茅野市の仏料理店「エスポワール」で

写真

 春のさわやかな風が木立を優しく抜ける茅野市の蓼科中央高原。その山の中腹に、オーナーシェフの藤木徳彦さん(46)が腕をふるう仏料理店「エスポワール」がある。ジビエ(野生鳥獣肉)料理が絶品で、首都圏など各地から多くのジビエファンが訪れる。

 東京出身の藤木さんが家族で移住し、オーベルジュ(宿泊施設つきレストラン)のエスポワールを一九九八年にオープンした。有害鳥獣として捕獲された動物の多くが廃棄される現状を知り、ジビエ料理の提供を始めた。

 国の統計などによると、野性鳥獣の農作物被害は年二百億円前後に上り、荒廃農地の増加につながっている。シカとイノシシの捕獲数は年間百十万頭だが、食用に回るのは7%で、ほとんどが埋設処理されている。

エスポワールで提供している信州産シカ肉のポワレ

写真

 「ジビエと言うと、硬くて独特の臭みがあり、おいしくないイメージがあるが、都市部ではおしゃれな食材になっている」と話す。

 人気メニューはシカ肉のポワレ(フライパン焼き)。「柔らかさの中に歯応えがあり、さっぱりとした味わい」と言う。パリッとした皮がおいしいカモのポワレやイノシシ肉の煮込み料理も好評だ。

 県鳥獣対策・ジビエ振興室によると、日本では仏教伝来以降、狩猟や獣肉を食べることが江戸時代まで制限されてきたが、諏訪大社が食べるための動物に限って殺生を認め、人々に免罪符として「鹿食免(かじきめん)」を渡してきたこともあり、信州では古くからシカ肉などを食べる文化があった。

 とはいえ、これまでは鍋料理が中心。欧州のように調理法が多彩と言えず、肉の衛生管理にも課題があった。

 藤木さんは二〇一四年に日本ジビエ振興協議会を設立し、有害鳥獣の有効活用を目指す全国各地の人たちとジビエ普及活動を展開。解体方法を統一して肉の品質を高め、売り手と買い手をつなぐ情報網を整備してきた。

新鮮なシカ肉を手に、ジビエ料理普及への思いを語る戸井口さん=富士見町の信州富士見高原ファームで

写真

 外食産業が安心して活用できるよう、協会は、国の衛生管理指針に沿って国産ジビエ肉を処理する施設を認証する仕組みを設け、七月から本格運用する。

 協議会の理事長を務める藤木さんは「ジビエ料理を普及させ、野生鳥獣による被害減につながる好循環をつくりたい。鳥獣害対策として国が支援を強化し、外食産業も注目している。ジビエ文化を定着させるにはここ数年が勝負」と意気込む。

 エスポワールにジビエを供給する富士見町のシカ肉処理業者「信州富士見高原ファーム」の戸井口裕貴さん(37)も、藤木さんと同じ思いで取り組む。

 同ファームは、町の猟友会の有志が一三年に設立。信州産シカ肉処理施設の認証を取得し、猟友会員が町内で捕獲した年約三百五十頭のシカを解体、販売する。捕獲後、素早く施設に運んで処理することも徹底している。

 猟師でもある戸井口さんは「捕獲した鳥獣の全てを有効活用し捨てる部分をゼロにしたい」としみじみと思いを語った。「一頭たりとも粗末に扱いたくない。山に生きた命をいただいているのだから」

 (一ノ瀬千広)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索