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長寿しなの 彩食記

<第8部 これも食べるよ> (1)ざざ虫

四つ手網でざざ虫を捕る中村さん=伊那市で

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 エビのようなほどよい食感に、甘塩っぽい味付け。上伊那地区の天竜川で長年ざざ虫漁を続ける伊那市中央の中村昭彦さん(73)が、地元特産のざざ虫のつくだ煮を前に「香ばしいでしょ。お酒にもご飯にも合う」とほほえんだ。

 ざざ虫はトビケラ、カワゲラの幼虫などの総称で体長は一〜七センチほど。つくだ煮は、まずゆでて赤紫色になった虫を主にしょうゆや砂糖で煮込んで作る。

 「マゴタもいいよ」と中村さん。ざざ虫は近年、ヒゲナガカワトビケラが最も多く、カミムラカワゲラ、ヘビトンボもいる。ヘビトンボは「マゴタロウムシ(孫太郎虫)」「マゴタ」とも呼ばれ、大きめ。サックリした歯ごたえとこくがある。

 ざざ虫漁は、二本の棒を交差させてドーム状に曲げ、底に網を張った「四つ手網」を使う。上流側ですきやくわを使って川底の石を裏返して、足でこすって虫を網に入れる。この動作から、漁は「虫踏み」とも呼ばれる。

 上伊那地域でざざ虫漁ができるのは天竜川漁協組合員で「虫踏(むしふみ)許可証」(一万五千円)を得た人。冷水で虫が脂肪を蓄える十二月から翌年二月が漁期だ。

 中村さんが虫踏みに触れたのは三十五年ほど前。近所の人に誘われた。独特の漁法や好みの味に仕上げる料理への興味が深まり、五年ほどして本格的に取り組み始めた。

中村さんが作ったざざ虫のつくだ煮(手前)。奥は味付けする前のゆでたざざ虫=伊那市で

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 一月中旬、中村さんの漁に同行した。水深四〇〜五〇センチと深くはないが、長靴で天龍川に入ると足下から冷えが体に広がる。中村さんはくわや足で石を動かし、網に虫を入れる。「今年は少ないね」。昨年の台風の影響で水量が増え、虫が流されたという。自然相手の漁。中村さんは「来年は戻ってくるよ」とサバサバしている。

 ざざ虫にくわしい伊那市職員の牧田豊さん(56)によると、ざざ虫は昔、県内あちこちで食用に捕られた。食生活の変化で他の地域は絶えたが、伊那谷では珍味として売る業者があったことから漁が残ったという。

 上伊那地域で漁をする人はかつて七十人を超えたが、近年は十〜二十数人が目立つ。関係者は、河川整備による虫の減少や地域の高齢化などが原因とみている。二〇一七年度の許可証取得者は、台風の影響で量が見込めないことが予想されたためか、前年度の半数の十人だった。

 「ざざ虫は地域特有の漁と料理。絶えないようにしたい」と熱く語る中村さん。「最近、近所で『自分もやってみたい』と言う人が一人現れたんですよ」。うれしそうに目を細めた。

 (近藤隆尚)

    ◇

 信州では、伊那谷の昆虫や馬のもつ煮込み「おたぐり」など、他県ではあまり活用されない食材や多彩な料理が散見される。冷涼な気候で海のない環境で育まれたユニークな食文化を紹介する。

◆日本は昆虫食先進国 立教大教授が熱弁

信州の昆虫食の多様さを語る野中教授=伊那市で

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 昆虫食の伝統は世界各地にあり、国内でも広く伝えられる。その中でも、県内はざざ虫に限らず、多くの昆虫食が残ることで知られている。イナゴ、ジバチ、カイコだけでなく、カミキリムシの幼虫やセミなども食用とする文化がある。

 三月二十一日、伊那市創造館でシンポジウム「昆虫食を語ろう!」が開かれた。パネリストの一人で昆虫食の研究を続ける立教大の野中健一教授も「日本は昆虫食の先進国」と指摘し、中でも信州の多様な昆虫食文化を強調した。

 「虫を食べることは自然、季節を感じることに結び付く。ざざ虫を食べれば、天竜川の環境などその背景を知ることにつながる」と熱弁した野中教授。会場の試食コーナーには中村昭彦さんのつくだ煮や海外の昆虫食が並び、ジンバブエ産ヤママユガの幼虫が入ったミネストローネスープは途中でなくなる人気ぶりだった。

 

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