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長寿しなの 彩食記

<第7部 癒やす自然の恵み> (13)ドングリ 

ドングリを生地に混ぜて作ったクッキーを持つ下出さん=王滝村で

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 皮をむいたドングリをざるに入れ、大きな鍋で沸かしたお湯に浸す。十分ほど煮ると、お湯が黒く濁って鍋底が見えなくなるほど。

 「何度も水を替えて二十時間は煮ないと、アクは取れないね」。ドングリを使ったクッキーなど食品加工販売を手掛ける王滝村の「木曽まんまグループ」代表の下出さち子さん(75)が教えてくれた。

 ドングリは苦みが強く、下処理に手間がかかる。下出さんは「そのままではとても食べられない」と語る。

 韓国では下処理したドングリ粉を固めて豆腐のように食べる「トトリムク」があるが、国内でドングリ食が残るのは東北や四国など一部のみ。山村の歴史などに詳しい笹本正治県立歴史館長は「県内では王滝村以外は知らない。文化的に極めて重要」と強調する。

 王滝村では、ドングリを「ひだみ」と呼び、下処理して粉末やペースト状にしたものをもちに混ぜたり、砂糖と水を加えてあんこを作ったりして食べてきた。

 近年は家庭で食べる習慣が薄れ、村内の郷土料理店などがドングリを使ったケーキやコーヒー、ドーナツなどを提供してきた。そうした店も高齢化などで手間のかかるドングリ料理を止め、現在、村で販売されるのは、木曽まんまグループのドングリクッキーだけだ。

 ドングリの食文化を後世に残す足掛かりにしようと、村はドングリの粉末を使ったうどんの商品開発を進めている。中心になっているのは、札幌市からのIターンで昨年夏に村の集落支援員に就いた石黒力也さん(36)だ。

ドングリのあく抜きで黒くにごった鍋=王滝村で(石黒さん提供)

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 村では、一九九九〜二〇〇六年ごろにもドングリのうどんを商品化しようとする試みがあった。作ったうどんを地域のイベントなどで販売し、もちもちした独特の食感が人気を呼んだが、一定の品質のドングリ粉末を安定的に調達できず、特産化には至らなかった。

 栄養士と調理師の資格を持つ石黒さんは「長時間煮る伝統的な方法では品質を均一にするのは難しい」と指摘。韓国などを参考に研究を重ね、皮をむいたドングリを加熱せずミキサーで砕き、水にひたして上澄み液を捨てる作業を繰り返すあく抜き方法を考案した。

 作業は一〜二時間ほどで、煮る方法から大きく短縮。熱を加えないため、品質が安定しているという。県の補助金を申請中で、大学など研究機関との提携も視野に、一年以内の商品化を目指している。

 石黒さんは「ビジネスとして成り立つ形にしないと、食文化を残していくことはできない。村民が『こんな良いものが村にはあったんだ』と再認識できるようなものを作りたい」と意気込む。

 (酒井大二郎)

 <ドングリの食文化> 県立歴史館の笹本正治館長や東北大の鈴木三男名誉教授(植物学)らによると、ドングリの主成分はでんぷんで、栗などと同様に栄養価が高い。食物としての起源は古く、国内では少なくとも1万年以上前の縄文時代草創期にさかのぼる。当初は沢など水の流れる所に穴を掘って囲い、ドングリをさらすなどしてアクを抜いた。戦後の食糧難の時代までは、特に稲作のできない地域で貴重なエネルギー源だったという。

 

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