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長寿しなの 彩食記

<第7部 癒やす自然の恵み> (8)ワサビ

畝の間を湧水が流れるワサビ田=安曇野市で

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 一夜穂高の 山葵(わさび)となりて 京の小町を 泣かせたや

 安曇野市や松川村で戦前から歌い継がれる民謡「安曇節」の一節。ツンと鼻に抜けるワサビのようないい男になって、京女(きょうおんな)を泣かせてみたいという男性の心理を歌ったものだ。

 大王わさび農場(同市)によると、ワサビのツンとした辛みの正体は、すり下ろした際に生まれる揮発性のアリルからし油。抗菌作用や発がん性物質の活性化を抑える働きがあるとされる。

 市豊科郷土博物館が、南安曇郡誌などを基にまとめた「安曇野わさび・いまむかし」(二〇一〇年)によると、同市のワサビ栽培は明治初期に始まった。

 当時一帯は県内有数のナシ産地で、病気予防のためにつくった水路で自家用のワサビを栽培したのが始まりとされる。一九〇〇年代に入って鉄道が発達すると、東京で高値で売れた。ワサビ栽培には流水が必要で、北アルプスからの湧き水に恵まれた土地柄を生かしてワサビ田が拡大。大正末期の二〇年代には一大産地になり、栽培面積は約九十ヘクタールに上った。

収穫されたばかりのワサビ=安曇野市で

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 現在も安曇野市は全国的な産地で、県内産の約九割を占める。県内のワサビ生産量は二〇一五年、葉や茎を含めて約八百七十トン。全国シェアは37%で、日本一だ。

 二位の静岡県はシェア25%だが、産出額となると約三十三億円で全国一位。長野県は約六億円にとどまる。

 農協が出荷と販売を担って「静岡わさび」のブランドを確立する静岡県に対し、安曇野市のワサビ農家などでつくる信州山葵農業協同組合は苗の仕入れなどをするが、販売には関与しない。出荷単価も低く、個人間で取引して市場に流通しないワサビも少なくないという。

 市内では後継者不足や湧水量の減少から、放置されたり、転用されたりするワサビ田が相次いでいる。山岳写真家で昆虫生態研究家だった田淵行男さんの記念館も、同市のワサビ田だった場所に建てられた。県内の栽培面積は現在、約四十ヘクタールになり、一五年の生産量は〇八年と比べ約二割少ない。

 こうした現状を打破しようと、組合は十一月、市と協力して荒廃したワサビ田を再生する事業に乗り出した。ワサビ田の場所や所有者をまとめた台帳を新たに作成し、就農希望者が借りやすいようにする。「先人に笑われないようワサビ栽培を復興したい」と組合のワサビ農家丸山千里(せんり)さん(30)が力を込めた。

 (川添智史)

元ワサビ田に湧く地下水。奥は田淵行男記念館の建物=安曇野市で

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