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長寿しなの 彩食記

<第7部 癒やす自然の恵み> (6)トウガラシ

てんとうなんばんの保存に取り組む高島さん=伊那市で

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 「県内はトウガラシ王国ですね」。信州大学術研究院の松島憲一准教授(50)が言葉に力を込めた。同大農学部(南箕輪村)にある研究室には「からごしょう」「空(そら)なんばん」など、県内の在来トウガラシ十四種を紹介するパネルがある。

 松島准教授によると、トウガラシは全国で栽培されるが、本州中央にある信州は東西の食文化が導入されるためか、古くから多くの品種が栽培されているという。

 その一つが「てんとうなんばん」。伊那市高遠町の農家がかつて自家用に育てた在来品種名だ。食生活の変化や農家の後継者不足もあり、近年は栽培農家はわずかだった。種の保存や伝統食材として利用を広げようと、地元の農家などが七月に「高遠てんとうなんばん保存会」を設立した。

 高遠町では、旧高遠藩主・内藤家の江戸屋敷周辺(現在の東京都新宿区)で多く栽培されたトウガラシを広げる取り組みもある。新宿でトウガラシを柱にした地域おこしが活発なことを受け、高遠町の住民たちも新宿から苗を譲り受け、五年前から栽培を広げる活動を進めている。

 このプロジェクト始動後、地元の農家二軒にてんとうなんばんの種や苗があることが判明。プロジェクト代表の高島良幸さん(62)らが「地域の宝になる」と目を付け、保存活動を決意した。

 松島准教授の協力を得て増殖し、今年、苗三百本が育った。半分を種用にし、残りは保存会の栽培者十三人に配った。高島さんは「かつてどんなふうに食べたかなど、食文化の歴史も探りたい」と意気込む。

     ◇

 信州伝統の香辛料といえば、長野市の善光寺表参道沿いに本店を構える「八幡屋礒五郎」の七味唐がらしが代表格だ。

好みに合わせてトウガラシなどの調合を注文できる八幡屋礒五郎の本店。同社の七味唐がらしは、東京、京都の老舗とともに「三大七味」の一つとされている=長野市で

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 一七三六年創業の同社の七味はトウガラシ、シソ、ショウガ、ゴマなどが原料。体に良いイメージと相まって、善光寺の御利益を求める参拝客の土産として定着した。

 江戸時代、陳皮以外は地元産だったが、五十年余り前から国産の供給が減り、ほとんど海外産になった。

 「原点に戻ろう」と十年前から自社生産の原料を少しずつ増やしている。飯綱町などの農場でトウガラシやハーブ類を栽培。原料のトウガラシの約5%は自社産に切り替わった。店頭調合の一品としても並べている。

 新たな取り組みにも積極的だ。二年前から、飲食店や地域おこしプロジェクトの注文に応じ、調合やラベルを工夫する「オリジナル七味」を取り扱う。室賀豊社長(56)は「和食だけでなく、洋食、中華にも合う味を作っていきたい」と語る。ビジネスの間口を広げ、伝統の辛みが持つ可能性の追求に余念がない。

 (近藤隆尚)

 <トウガラシの由来と三大七味> 信州大植物遺伝育種学研究室がネット上で公開する育種研植物図鑑によると、トウガラシは、メキシコ周辺が起源地で、現在では熱帯から温帯にかけて広い地域で栽培されている。江戸中期の「和漢三才図会」には「蕃椒」の表記で登場。蕃は南蛮の蛮の意。八幡屋礒五郎の七味唐がらしは、同じく江戸時代に創業した東京都の「やげん堀七味唐辛子本舗(中島商店)」、京都府の「七味家本舗」とともに日本三大七味の一つとされる。

 

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