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長寿しなの 彩食記

<第7部 癒やす自然の恵み> (3)甘茶

甘茶の茶葉。見た目は普通のお茶だが甘みのある後味だ

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 見た目は普通のお茶。飲むと、しっかりした甘みが後味となって口内で広がった。「砂糖は入っていません」。佐久ホテル(佐久市)で、十九代目社長の笹沢明剛さん(52)が笑顔を見せた。

 「信州最古の温泉宿」をうたうこのホテルの名物「天(あま)茶」は、神職の資格を持つ笹沢さんが甘茶をホテル内の社殿で祈祷(きとう)して販売している。ロビーには試飲コーナーがあり、近所の児童たちが毎日のように学校帰りに飲んで行くという。

 笹沢さんによると、甘茶は、アジサイ属のアマチャを根元から刈り取り、葉を選別してもみ、紅茶のように発酵させて天日干しして作っている。

 アマチャはお茶として楽しめるほか、野沢菜などと一緒に漬けると漬物に甘みが加わる。飲みやすくなるように森下仁丹(大阪)の清涼剤「仁丹」にも使われている。日本特産農産物協会(東京)によると、長野県は二〇一五年に六・六トンを生産し、日本一だった。

佐久ホテルで販売されている「天茶」

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 佐久市教委などによると、地元では、アマチャを家庭で栽培したり山で採取したりする人もいて、元日に甘茶を振る舞うなどの風習が根付いている。祭りでお神酒の代わりに振る舞われたり、参加者が無病息災を願って飲んだりもする。

 厚生労働省にアマチャの特徴について報告した名古屋大大学院の技術補佐員数馬恒平さん(48)や日本薬学会の薬学雑誌などによると、甘茶は釈迦(しゃか)の誕生を祝う花まつり(灌仏会(かんぶつえ))で仏像にかけることで知られ、甘味成分のフィロズルチンがショ糖の約四百倍。カロリーはゼロ。濃い甘茶を飲んで嘔吐(おうと)する中毒症状もあり、一リットルの水に茶葉二〜三グラムが適量という。

 花まつりを毎年五月五日に善光寺で開催する長野市仏教会の会長海野正信さん(56)は「諸説あるが、釈迦が誕生した時に甘露の雨が降ったなどの伝説にちなんでいる」と話す。

 砂糖の手に入りづらかった戦時中には重宝され、笹沢さんの母千晴さんも「甘茶をもらおうと、近所のお兄さんと一緒に瓶を持って近所の寺にもらいに行った」と振り返る。

アマチャを前に天茶の説明をする笹沢社長=佐久市の佐久ホテルで

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 佐久ホテルでは宿泊客の口コミで広がり、糖尿病を患うなど糖分の摂取を制限されている人たちにも人気という。台湾やヨーロッパからもネット注文が舞い込む。

 甘茶を販売する黒姫和漢薬研究所(信濃町)はドイツやフランス、シンガポールなどへの輸出を模索している。社長の狩野土(はかる)さん(56)は「緑茶に砂糖などを加えて飲む国もある。甘みが好まれ、健康志向の強い国で甘茶は支持を集められるのでは」と期待を込める。 

  (高橋信)

 

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