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長寿しなの 彩食記

<第5部 山のおもてなし> (3)手作りパン

◆失敗重ねて、味を追求

販売されている焼きたてのパン=山ノ内町で

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 「ぶどうパン」をほおばると、ブドウの甘みが口の中に広がった。「くるみパン」は、かむほどにクルミの素朴な渋味がしっかり。どちらも、もっちりとした歯応えが食欲をそそる。

 山ノ内町の志賀高原・横手山(二、三〇七メートル)にある横手山頂ヒュッテ。登山者や観光客らに、焼きたての手作りパン(一個三百円から)を売ることで知られる。他に野沢菜やチョコ、カレー、カスタード入りなど約十五種類をそろえる。生みの親は、社長高相重信さん(77)の妻妙子さん(74)だ。

 妙子さんは関西の裕福な家庭に育ち、パンは小さい頃から毎日食べていた。ヒュッテに嫁いだのは二十代初めごろ。近くでスキーをして骨折し、ヒュッテで療養した時に重信さんと出会って、恋に落ちたという。

 「しゅうとめさんに言いづらかったけど、パンが食べたくて」。嫁いで数年後には調理本で独学し、こねたうどん粉を風呂場に置き、発酵させて焼いた。

 パンは約四十年前から売り始めた。登山客に振る舞って「おいしい」と喜ばれたことがきっかけだった。「手作りパンは珍しかった。添加物が入っていない味が新鮮だったのかもしれない」

「失敗は成功のもとだと信じてパンを作った」と振り返る妙子さん=山ノ内町で

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 納得のいくパンにたどり着くまでは試行錯誤を繰り返した。国産のパン焼き窯を使ったが、麓に比べて気圧が低いせいか、うまくいかなかった。「高地の乾燥のせいか、焼くとイボみたいなぶつぶつが表面を覆って硬くなった。失敗は成功のもとだと信じて続けた」。うまくできなかったパンはみんな捨てた。欧州のアルプス山脈でも使えるドイツ製の窯を導入すると、解決した。いろいろな種類の小麦粉を混ぜる生地の調合も失敗続きで、苦労した。

 努力の結晶のパンは、登山者の間の口コミで「おいしい」と話題に。新潟市の会社員堀利奈さん(32)は「山で焼きたてのパンが食べられるなんて珍しいと思い、パンを目当てに来た。もっちりとしておいしい」とほおを緩ませた。

 現在、パン作りは次男の育永(いくえい)さん(44)夫妻に引き継いでいる。育永さんは「標高の高いヒュッテは夏でも涼しい。自家製のボルシチなどスープ類を食べる人も多く、パンと一緒に提供していきたい」と意欲満々だ。

 焼きたての手作りパンは、松本市の北アルプス・槍ケ岳(三、一八〇メートル)の山頂直下にある槍ケ岳山荘でも売っている。調理用のガスオーブンで、クロワッサンやオリーブなどのハーブを入れたロールパンなど五種類(一個三百円から四百五十円)。

 売り始めたのは十六年前。経営する穂苅康治さん(68)は「手作りパンの店が増えていて、山の上でも作れないかと考えた。朝に山小屋をたつ際にパンを買っていってくれる登山者を見るとうれしくなる」と話す。

 (林啓太)

パン目当ての観光客が少なくない横手山頂ヒュッテ=山ノ内町で

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 =第5部終わり

 

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