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長寿しなの 彩食記

<第5部 山のおもてなし> (1)西穂らーめん

みそ味の「西穂らーめん」。この味を楽しみに登山客が訪れる

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◆雲上で生麺にこだわり

 「これ、これ。このラーメンを楽しみに登ってきたんだよね」。七月初旬、松本市と岐阜県高山市境付近にある西穂山荘。大学時代から友人の町山元章さん(57)=横浜市=と山下正宏さん(57)=東京都中央区=が声を弾ませた。注文したしょうゆ味とみそ味がテーブルに置かれると、すかさず熱々の麺をすすった。

 松本市の会社が運営する西穂山荘で、一番人気の看板メニューが「西穂らーめん」(ともに九百円)。標高の高い場所にある山小屋では珍しい生麺を使い、スープも独自に開発した。「自分の足で登ってきた人にしか食べられない、山荘だけの味です」と支配人の粟沢徹さん(54)が誇らしげに語った。

 山荘では十五年ほど前からラーメンを提供してきたが、冷凍麺と市販のスープだった。よりおいしいものを食べてもらおうと、二〇一〇年ごろ改良に乗り出した。

しょうゆ味のラーメンを注文し、麺を口に運ぶ夫婦の登山客=北アルプスで

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 北アルプス・西穂高岳(二、九〇九メートル)を登る拠点となる西穂山荘は標高二、三七六メートルにあり、沸点は九〇度に届かない。通常の麺をゆでても芯が残る。

 粟沢さんは太さや素材の異なる麺を二十種類以上試作し、たどり着いたのが高山ラーメン。麺が細くて芯が残らずゆでられ、山荘から徒歩一時間〜一時間半ほどの新穂高ロープウェイ(高山市)を使えば安定調達できるメリットもあった。

 スープは、鶏がらベースのしょうゆ味から開発を進めた。ごみをヘリで下ろす経費がかさむため山荘で鶏がらを煮込むことはできない。濃縮スープの開発を委託しようとしたが、一日百五十食では少なすぎ、引き受け手探しが難航。全国の十社以上に電話をかけ、委託先を見つけた。構想から一年半、生麺のオリジナルラーメンの提供にこぎ着けた。

 信州らしさを出そうと、続いてみそ味の開発に着手した。高山ラーメンの極細麺を使うと、こってりした味のスープに負けてしまう。試作を重ね、スープの油分を減らす代わりに塩気を強め、信州みそ本来の味わいを生かしたスープを完成させた。特色を出すため、エビ風味も加えた。

 雲上でもおいしいラーメンが食べられると評判が広がり、西穂らーめん目的の登山客やリピーターが増えた。粟沢さんは「せっかく登ってくるのに品切れとは言えない」と在庫状況に気を使う。

 食材は二週間に一度ヘリで運搬するが、途中で不足しそうになると、スタッフが下山して担いで運ぶ。ヘリが飛ばない冬は、粟沢さんも加わって毎週荷上げする。

登山客でにぎわう西穂山荘=北アルプスで

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 苦労を重ねて提供する粟沢さんは「山荘での温かい食事が安全な登山につながれば」と思いを込める。 (斉藤和音)

    ◇

 「日本一の山岳県」と呼ばれる県内の山々には、登山客らが一息つき、英気を養う山小屋が数多くある。標高が高くて沸点が低く、食材の運搬も容易でない環境でさまざまな料理が提供されている。国民の祝日になって2年目を迎える「山の日」(11日)を前に、山小屋ならではの食や工夫を紹介する。

 

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