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長寿しなの 彩食記

<第4部 豊かさ醸す発酵文化> (7)日本酒7号酵母

◆良質、蔵元の6割利用

「7号酵母の酒の割合を高めていきたい」と語る宮坂社長=諏訪市の宮坂醸造で

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 甘い芳香がかすかに漂う酒蔵。林立するタンクの間を進むと、奥の壁に石のプレートが見えた。「七号酵母誕生の地」。黒地に浮かぶ白い文字が歴史の重みを感じさせた。

 七号酵母は、日本醸造協会が培養し、各地の酒蔵などに販売する日本酒の酵母「きょうかい酵母」の一つで、戦後第一弾として登録された。「宮坂醸造」(諏訪市)の本社にある諏訪蔵で、一九四六(昭和二十一)年に見つかった。プレートがある辺りのタンクが発見場所という。

 宮坂醸造や協会の関係者によると、七号酵母は現在、国内の蔵元の約六割が利用する優良酵母。この酵母で醸造する酒は、落ち着いた香りで料理を引き立てるという。

 「一六六二年創業だが、元から立派な酒屋だったわけではない。祖父(先々代の故勝(まさる)さん)や杜氏(とうじ)の地道な熱意でおいしい酒を造れるようになったんです」。宮坂醸造社長の宮坂直孝さん(61)が説明する。

酒蔵に掲げられた「七号酵母誕生の地」のプレート=宮坂醸造で

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 代表銘柄の「真澄」は、勝さんらの努力で戦前から全国品評会で好評を得て、一九四六年は一〜三位を独占した。国の旧醸造試験所が好成績に着目し、真澄のもろみから採取、培養したのが七号酵母だ。プレートの字は発見した醸造試験所の山田正一博士が書いた。

 「七号酵母を生んだ家だ」「ごまかしのない酒造りをしないと」。十年前に社長を継いだ直孝さんは、勝さんと父和宏さん(89)が食卓で熱く語り合っていたのを覚えている。

 とはいえ、七号酵母を絶対視し、まつり上げる意識は長い間なかった。二十年余り前から、七号酵母より香りが強い酒が出回った。直孝さんもそうした酒を造り、成功した製品もあるという。

7号酵母を使った「真澄」の生酒など=伊那市の酒店で

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 五、六年前からは、七号酵母の重要性を強く意識するようになった。強い香りばかりでなく、味と香りのバランスが良い酒に回帰する傾向が見られてきたためだ。各地の蔵元も七号酵母などに注目する。宮坂醸造では現在、生産量の七割ほどの酒が七号酵母の醸造で、直孝さんは「この割合を高めていきたい」と力を込める。

 七号酵母誕生から七十年の二〇一六年、「真澄」に次ぐ銘柄「みやさか」を「MIYASAKA」にリニューアルした。使う酵母は七号のみ。取り扱う酒店を限定して販売する。その一つ、三代沢酒店(松本市)の福沢崇浩専務は「七号酵母は真澄の原点。盛り上げたい」と語る。

 宮坂醸造では今、製造系の幹部らが毎月、全国各地の酒の利き酒を半日かけてしている。自社製品の品質に磨きを掛けるのが目的。かつて、蔵でも家でも利き酒をして泥酔する日々を送った勝さんをほうふつとさせる。

 「本道を行くことでしょうね」。直孝さんは、祖父や父の言葉をかみしめるように今後の酒造りの方向性を語った。

  (近藤隆尚)

 <きょうかい酵母> 日本醸造協会が酒蔵などに販売する日本酒や焼酎、ワインの酵母。製造過程で他の菌が入って酒がだめになったり、味が不安定になったりするのを防ぎ、安定的に醸造させる目的で供給している。日本酒用の1号は1906(明治39)年の販売だった。協会は販売量を公表していないが、現在販売する日本酒酵母の約30種のうち、普通酒から吟醸酒まで幅広く利用できる7、9号が圧倒的に多いという。

 

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