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長寿しなの 彩食記

<第1部 海なし県の魚たち> (8)信州サーモン

◆地道に育て人気上昇

松本市のホテルで新開発の丼物にも信州サーモンが使われている=同市で

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 きめ細かい肉質がトロリとした食感を生む信州サーモン。丼、刺し身などのメニューが県内の宿泊施設や飲食店で好評だ。県の古名を背負ったこの魚の開発は、一九九四年に始まった。

 「県内のホテルや旅館でたくさん食べてもらえる地元産の魚が目標だった」。安曇野市にある県水産試験場の増殖部長降幡充さん(55)は説明する。

 県内の養殖魚の主流はニジマスだが、食生活の変化などで、かつてに比べ需要は少ない。飼育しやすさから全国に普及し、独自性を出しにくい。そうした状況下、同試験場はニジマスのうまさや養殖技術を生かした、ニジマス以上に病気に強い魚づくりの模索を始めた。

 異種交配でも子が育つニジマスをつくる染色体操作技術は既にあり、それを軸にシロザケ、イワナ、ヤマメなどサケ科の魚を交配させた。「掛け合わせれば答えは出るもの」。開発の中心だった環境部長沢本良宏さん(57)は研究者らしく淡々と語るが、正解がすぐ得られた訳ではない。

 子の形や味、生存率などを知るには数年かかる。研究者は連日、成長の記録、病気への耐性や育たなかった子魚の死因の追究など、地道な作業を続けた。

 開発開始から約五年。掛け合わせた魚が育つ中、欧州原産のブラウントラウトとニジマスの交配魚が、扉を開いた。味が良く病気に強い。肉付きの良さとたくましい顔立ち。両種の特長があった。

信州サーモンのはく製を手に、好調な出荷を喜ぶ降幡さん=安曇野市の県水産試験場で

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 食べ比べなどを経て沢本さんは決めた。「これでいきます」。当時の試験場長に伝えた。

 二〇〇一年から量産。稚魚を出荷し始めた〇四年以降は、試食会や料理人への無償提供などPRを進めた。〇五年に愛知県で開かれた愛・地球博では来場者に振る舞った。沢本さんは「生産者も消費者もおいしいと言ってくれた。認められたと感じた」と振り返る。

 現在、県内四十二カ所の養殖場で飼育。一五年の食用の出荷量は三百四十五トンで、初出荷された〇五年に比べ十倍近くに達した。

 県内養殖業者でつくる信州サーモン振興協議会の高原正雄会長(74)は「生産が追い付かないのが現状。スモークサーモンやすしなど使い方も増えてきた。出荷はもっと伸びるのでは」と期待する。

 同試験場が開発した県産養殖魚では昨秋、「信州大王イワナ」の出荷も始まった。信州サーモンの赤身にイワナの白身。「紅白ともに大きく育ってほしい」。降幡さんは旅立つ子を思いやるように言った。(水田百合子)

 <信州サーモンの生態と流通> 稚魚は2、3年で体長50〜60センチほどまで成長する。繁殖能力はない。県水産試験場のみが稚魚を出荷している。2014年に地域団体商標に登録された。

 

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