トップ > 特集・連載 > 長寿しなの 彩食記 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

長寿しなの 彩食記

<第1部 海なし県の魚たち> (2)佐久鯉

◆寒暖差 締まった身に

新鮮な佐久鯉の洗い(左)と味の浸みたうま煮(右)=佐久市で

写真

 透き通るような、ほんのりとしたピンク。冷水で締まった切り身が、わさびしょうゆに絶妙に合う。

 「臭みがなく、身が引き締まって甘い。佐久鯉(ごい)の特徴なんだよ」

 佐久市高柳にある佐久養殖漁業協同組合の調理場。組合長の飯田好輝さん(63)が、養殖池から引き上げたばかりのコイの洗いを勧めてくれた。

 コイは本来、よどんだ水の中で育つことが多く、切り身などにすると泥くささが残ることがある。だが、佐久鯉は、成魚になってから冷たく澄んだ千曲川の流水を使った養殖池で育てるため、臭いが残らないという。寒暖の差の大きい佐久の気候も、締まった身をつくる要素らしい。

 飯田さんは「栄養豊かで温かい池などに比べれば、成長は遅い。養殖するには効率は悪いともいえるが、間違いなくおいしい」と言い切る。

 父親を手伝って二十二歳で養殖に携わってから四十年余り。「毎日誰かが買いに来る。『風邪ひいたら必ずコイを食べる』という方もいる。休んでなんかいられない」。佐久鯉の世話は飯田さんの暮らしの一部になっている。

 佐久の人々の暮らしに寄り添うような食材でありながら、佐久鯉の出荷量は減少傾向にある。

「佐久鯉は身が締まって甘い」と語る飯田組合長=佐久市で

写真

 高度経済成長ただ中の昭和三十年代。佐久地域の人口増に伴い、佐久鯉の出荷量は年間千トン程度にまで達した。ところが、流通技術の発達で、海などから運ばれる多様な魚を手軽に購入できるようになると、消費は次第に低迷。食の欧米化も追い打ちをかけ、今では年三百トンまで減ったという。

 ただ、最近になって、テレビ番組やネットで紹介される機会が増えたためか、佐久地域外へも佐久鯉に対する関心が広がっている。

 「県外からも『佐久鯉を食べたい』という人が来る。少しずつながら、人気が戻ってきた感じがします」と、佐久市中込の「三河屋食堂」を経営する本多一弘さん(62)は話す。特に好評なのは、濃い口しょうゆと酒、砂糖でじっくり煮込んだ「うま煮」という。

 江戸時代から食べ続けられた佐久鯉料理。みそ汁の「鯉こく」、塩焼き、鯉丼…。定番メニューは豊富だ。

 「佐久の人にとって、冠婚葬祭には欠かせない。コイはやっぱり一番身近な魚」。ひっきりなしに客が訪れる店先で、本多さんは言葉に力を込めた。(佐藤裕介)

 <佐久鯉の歴史> 江戸時代、呉服商が大阪から持ち帰った「淀鯉」が発祥とされる。当時、養鯉(ようり)には年貢がかからなかったことから、水田でのコイ養殖が広まり、佐久料理の食材として普及したという。2008年、特許庁の地域団体商標に登録された。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索