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長寿しなの 彩食記

<第1部 海なし県の魚たち> (1)飯田・温泉トラフグ

◆山村の挑戦 滋味育む

温泉トラフグ養殖に取り組む山崎さん。秋には食堂で料理が提供される予定=飯田市のかぐらの湯で

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 山々に囲まれた飯田市南信濃。日帰り温泉施設「かぐらの湯」の敷地に、小さな白いビニールハウスがある。中は、施設を運営する市南信濃振興公社が五年前から手掛けている、温泉水を使ったトラフグ養殖設備。二〇一七年秋にも、商品化第一弾として、施設内の食堂で料理を登場させる予定だ。信州の山村で育てた高級魚の全国展開を目標に、貴重な一歩を踏み出す。

 直径二メートル、深さ八十センチの養殖用水槽は、いま二基。「一月中にはさらに二基増やす。増産態勢が整えば、雇用の場の確保につながるはず」。養殖担当の同公社職員山崎徳蔵さん(67)が熱っぽく語った。

 高級魚のフグの中でもトラフグは最も高価。養殖が軌道に乗れば、都市部に出て行く若者を少しでも地域に引き留められる。そんな思いが日々、募る。

 フグ養殖の中で、温泉水を使う方法は近年注目されている。

 海水より有利なのは温度と塩分。温かさが成長を促す上、温泉によっては塩分濃度が生理食塩水(約0・9%)に近く、魚がストレスなく育つという。成長が早ければ需要の変化に早めに対応でき、餌代など費用も抑えられる。

 栃木県の水産養殖業者が温泉トラフグに取り組んでいるのを、山崎さんがテレビで知ったのが、取り組みのきっかけ。同じ海なし県の地域おこし的活動。塩分濃度も「かぐらの湯」ならちょうどいい。南信州・飯田産業センターからの要請もあり、一一年秋、同社から稚魚二百匹を取り寄せ、技術指導も受けて事業を始動した。

 温泉水は温かいといえ、そのままで養殖はできない。夏は地下水で冷やし、冬は温泉水を常に循環させ温かさを保つ。一年目は温度管理に苦労したが、翌年からはコツをつかんだ。

 五年間で稚魚から成魚に育った割合は約90%。一二、一四年に開いた試食会は好評だった。出品した刺し身、唐揚げなどに「本場よりうまい」との声も出たという。山崎さんは「ノウハウは確立できた。味にも自信がある」と胸を張る。

湯釜に注がれる源泉。離れた場所にあるトラフグ養殖設備まで管で温泉水が送られる=飯田市のかぐらの湯で

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 公社は、近隣の飲食店などを含め徐々に市場開拓を進め、事業自体を大きく育てたい方針。他の生産地との差別化のため、地元の動物の肉や竹などを使った餌作りや、関心を引くブランド名も考えていくつもりだ。

 「まずは何でもやってみなきゃな」。目前に迫った料理提供に対する「希望と不安」とは別に、山崎さんの表情には、将来を見つめて新ステージに果敢に臨む覚悟がにじんでいた。(牧野良実)

   ◇ ◇ ◇

 長寿を誇る県内は、多様な地形や気候を背景に、ユニークで豊かな食文化に富んでいる。この連載は、新たな食材や料理づくり、伝統の継承といった取り組みを通じて、信州の暮らしを彩る「食」に迫る。第一部「海なし県の魚たち」は、山あいにありながら海の魚を取り込んだ生活、地域特有の川魚にまつわる物語などを紹介する。

 <日本のフグ食> 食用のフグにはトラフグのほかに、マフグ、シマフグなどがある。千葉県教委によると、縄文時代中〜後期の遺跡とされる同県市川市の姥山(うばやま)貝塚では、フグの骨と人骨が発見されている。フグ毒で死んだとの説もある。

 

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