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長寿しなの 彩食記

<第4部 豊かさ醸す発酵文化> (3)すんき

◆乳酸菌2種 味のたね

塩を使わずに乳酸発酵させたすんき=木曽町で

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 薄黄色の液体が入った試験管が金属製ラックにいくつも並んでいた。目を凝らしてよく見ると、それぞれの試験管の底に白い沈殿物が見えた。「すんきから採取した乳酸菌です」。東京農業大名誉教授の岡田早苗木曽町地域資源研究所長(67)が笑顔を見せた。

 すんきは赤カブの葉を乳酸発酵させた漬物で、木曽地域を代表する伝統食。塩を全く使わず、しっかり漬かった前年のすんきを「たね」にして発酵させる。無塩の漬物は世界的にも珍しく、応用微生物学が専門の岡田所長は「すんき以外では、中国の白菜とネパールのカラシ菜を使った漬物しか確認できていない」と指摘する。

 この研究所は二〇一一年、木曽の地域資源を科学的に研究して活性化につなげようと木曽町が設立。健康食として注目を集めるすんきも最新の機器を用いて分析し、くせになる酸味やうま味の由来、すんき作りの「名人」のように発酵させるコツなどを研究。通常の漬物にはほとんど見られない二種類の乳酸菌が多く含まれ、味を大きく左右していることを突き止めた。

 その一つが「ラクトバチルス・ファーメンタム」という菌。ブドウ糖などを分解する際、乳酸とともに、貝類などに多く含まれるうま味成分のコハク酸を作るのが特徴だ。

すんきから採取して培養した乳酸菌の入った試験管を持つ岡田早苗所長=木曽町地域資源研究所で

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 「みそ汁やそばなど、だしを使った料理に入れて食べると抜群においしくなるのはコハク酸のおかげ。すんきのうま味の源」と岡田所長。この菌は四〇度前後で活性化する。すんきを漬け込む際に湯がいたカブ菜をこの温度帯で丸一日保つことが重要と分かり、名人のコツを数値化した。

 もう一つの乳酸菌は「ラクトバチルス・デルブリッキー」。これを使ったヒット商品が、みそや豆乳を製造販売するマルサンアイ(愛知県岡崎市)の「豆乳グルト」だ。

 豆乳に乳酸菌を加えてヨーグルトのように発酵させ、軟らかく粘性のある食感と酸味が特徴。乳アレルギーのある人でも手軽に乳酸菌を摂取できる。同社初の生菌を使った商品として企画したが、開発は容易でなく、商品化に約十年かかった。

豆乳グルトを手に「すんきの乳酸菌がなければ商品化のめどは立っていなかった」と語る菅原誠さん=愛知県岡崎市のマルサンアイで

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 最も苦戦したのが発酵の調整だった。ほど良い酸味を模索して数百種類の植物性乳酸菌を試したが、酸っぱくなりすぎるなど、うまくいかなかった。試行錯誤を続ける中、同社の技術顧問を務める岡田所長にすんき特有の乳酸菌を紹介された。

 一〇年度に発売。ヨーグルトより低カロリー、低糖質として、三十〜四十代の女性を中心に人気を獲得。右肩上がりで販売が伸び、一六年度は三百六十二万個売れた。販売エリアも東海三県から徐々に広げ、六月から全都道府県に広がった。

 研究開発室第三グループ長の菅原誠さんは「求めていた味や食感を実現できたのはすんきの乳酸菌だけ。発酵を制御しやすく、この菌がなければ商品化のめどは立っていなかった」と振り返る。便利な植物性乳酸菌として、豆乳グルトに続く商品開発を進めている。(酒井大二郎)

 

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