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長寿しなの 彩食記

<第4部 豊かさ醸す発酵文化> (2)野沢菜漬け

◆世界に誇れるうまみ

腰の高さほどある野沢菜を根元から刈り取る作業=野沢温泉村で(とみき漬物提供)

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 温泉の白い湯煙が立ち込める。朝の冷え込みが厳しくなる十一月上旬の共同洗い場。近所の主婦らがしゃがみ込み、野沢菜を丁寧にこすって温泉水で土や汚れを落とす。

 野沢温泉村で、野沢菜の収穫ピークを迎える初冬の風物詩。野沢温泉観光協会の森博美事務局長は「寒い季節に冷たい水でなく、温泉水で洗える。しんなり柔らかくなるので、汚れもきれいに落としやすい。厳しい環境の中で生まれた生活の知恵」と語った。

 協会によると、野沢菜は幕末の約二百五十年前、村内にある健命寺の住職が遊学した京都から天王寺カブの種を持ち帰ったのが始まりと言い伝えられる。寒冷な気候のためか、かぶは小ぶりで茎の部分が長く育った。作り続けているうちに変異を遂げ、天王寺カブとは異なる作物になったという。

 森事務局長は「雪で青物が食べられない冬の間の保存食として重宝してきた」と話す。村では野沢菜を「お菜」、野沢菜漬けを「お葉漬け」と呼んでいた。村外から訪れるスキー客らの間で評判となり、昭和三、四十年ごろには「野沢菜」の名前が定着し、信州名物として広く知られるようになったという。

収穫した野沢菜を温泉で洗う女性たち=野沢温泉村で(野沢温泉観光協会提供)

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 野沢菜は九月に種をまき、収穫は十一月ごろがピーク。一メートルほどの腰の高さに育った野沢菜は鎌で一つ一つ刈り取られる。

 栽培から漬物の製造販売まで手掛ける同村の「とみき漬物」では、おけの表面に薄氷が張るマイナス三度でじっくり熟成させる。富井義裕社長は「自然本来の環境に近づけて仕込んでいる。自然の乳酸発酵を生かして熟成させることでうまみが増す。地元で取れた野沢菜は葉が柔らかくて甘く、全国で一番おいしい」と胸を張る。

 収穫の秋からは、一カ月ほど漬け込み、鮮やかな緑色でシャキシャキとした歯応えの野沢菜漬けが味わえる。しょうゆやみりんなどで短期間漬け込んだ時漬けも食卓に上がる。

 冬にかけては一、二カ月ほど漬け込み、まろやかな味わいでべっこう色になったものも登場する。さらに発酵が進むと酸味が増すため、炒め物や酒かす煮にして食べる人も多く、季節によって変化する味わいも魅力だ。

できあがった野沢菜漬けの出荷作業をする従業員ら=野沢温泉村で

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 野沢菜漬けには食物繊維や乳酸菌が豊富に含まれる。一袋二百五十グラムの野沢菜漬けに含まれるビタミンCはミカン四個分になるという。

 栄養豊富な野沢菜を外国人にも味わってもらおうと、富井社長はジャムやオリーブオイル漬けなどの商品化を模索する。「漬物や発酵は世界に通じる食文化。野沢菜を通して世界に広めていきたい」(斉藤和音)

 

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