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長寿しなの 彩食記

<第2部 寒さ生かす知恵> (3)風穴と雪室

◆おいしさ増す貯蔵庫

山の斜面に立つ風穴。内部は冷えた空気が流れ込む「天然の冷蔵庫」だ=松本市安曇で

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 大小の岩が四方に積み上がっている。小屋の木戸を押し開けて中に入ると、岩の隙間から流れ込むひんやりした冷気が流れ込んできた。

 松本市安曇の稲核(いねこき)地区の山の斜面にある「風穴(ふうけつ)」の内部。梅干しを漬け込むプラスチック製の容器に触れると、冷たさのあまり指先に軽い痛みを感じた。

 風穴の内部は、北アルプスの豊かな地下水で冷えた空気が岩の間から絶えず流れ込み、暖かくなる四月以降も温度が五〜一〇度ほどに保たれる。梅干し、たくあんなどの漬物やみそが腐らない「天然の冷蔵庫」として、この地区では江戸時代から愛用されてきた。

 内部の奥行きは四、五メートルほど、高さは二メートルほど。冷蔵庫には置くことのできない大きな漬物樽(だる)やみそ樽を置く場所として重宝され、戦後も三十以上の風穴が使われていた。

内部が大小の岩で積み上がっている風穴で保管されている梅干し=松本市安曇で

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 この地区の有馬節子さんは「風穴で保管しておくと、ちょっとおいしさが増しているような気がする」と梅干しなどの保存に活用する。「急な山の斜面を登って風穴まで行くのは大変。昔ほどは利用しなくなった」と苦笑いする。最近は高齢化などの影響で、使用されなくなって荒廃する風穴が出始めた。

 風穴とその食文化を後世に伝えていこうと地元の町会は二〇〇八年、中信森林管理署が所有する風穴を譲り受けた。千百万円かけて改修し、日本酒などの貯蔵に使っている。

 町会長の有馬正敏さん(69)は「現役の風穴は半分ほどになったが、地域に残された貴重な文化として後世に伝えていきたい」と思いを込める。

 自然の力を生かす「天然の冷蔵庫」は、他にもある。雪を詰め込んで農産物の鮮度を保つ「雪室(ゆきむろ)」だ。

 飯綱町が一三年に建設した雪室は約四十平方メートル。内部を木の板で半分に仕切り、片方のスペースに雪を天井付近まで詰め込み、もう片方にリンゴなどを保管している。二月下旬にリンゴを入れると四月下旬まで保ち、甘みも増すという。

 雪室を管理する町ふるさと振興公社の社長平塚慶吾さん(61)は「寒さから自らの身を守ろうと、でんぷんを糖に変えるため」と甘くなる理由を説明する。冷蔵庫と比べて湿度が高いのも鮮度を保つのに有効という。

雪が貯蔵してある隣の部屋で保存されるリンゴ。2月下旬に入れ、4月下旬まで保つという=飯綱町で

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 飯綱町では戦前から、一部の農家が雪を利用して農産物を保管してきた歴史があったという。最近では雪室で甘みを増したリンゴを求め、雪室に併設された直売所を訪れる観光客が増え、東京など遠方からもやって来る。

 「寒いのは悪いことばかりじゃないってことですよ。おいしいものが食べられるんだから」。平塚さんが顔をほころばせた。(佐藤裕介)

 

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