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長寿しなの 彩食記

<第2部 寒さ生かす知恵> (1)凍りそばと寒ざらしそば

◆途絶えた伝統を復活

氷が近くに張った川にソバの実を浸す高遠そば組合の組合員たち=伊那市で

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 豪雪地帯の信濃町。一月下旬の夜、農家の女性四人が冷たい水に手を浸し、すくい取ったそばの束を輪っか状にして置いた。四百個を作り終えた頃には、手が真っ赤になった。

 女性たちが手掛けるのは、江戸時代から信濃町に伝わる「凍りそば」。凍らせて乾燥させた麺は保存が利き、お湯で戻してお吸い物の具にして食べる。手軽で、自然の気候が生んだインスタント麺のようだ。

 凍りそばは戦時中に一時途絶えたとされるが、地元農家でつくる農事組合法人「信州黒姫高原ファミリーファーム」が一九八七年度、他の地域にない名物として復活させた。

 そばは大寒のころ、マイナス一〇度ほどになりそうな日を選んで打つ。夜にゆでて数百個の輪っかを竹かごに並べ、屋外に作った棚に置いて、一晩放置する。外で凍ったそばは翌朝、風通しが良くて寒い屋内に移す。外気温の変化によって凍ったり解けたりを繰り返し、約一カ月かけて徐々に乾燥させる。

 「作るのは、寒(かん)じるような日じゃないといけない。暖かいと(そばの色が)黒っぽくなってしまう。日に当たっても駄目だね」。法人のそば班長原山文子さん(74)が語る。気候が品質を左右するだけに「温暖化でどんどん難しくなっていく」と最近の変化に頭を悩ませながら、伝統を守り続けている。

かじかむ手で輪っかにしたそばを並べていく女性たち=信濃町で

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 伊那、茅野市などには、ソバの実を冷たい川に浸す「寒ざらしそば」の技法が伝わる。将軍家に献上された江戸時代が終わって長らく途絶えていたが、地元のそば関係者がそれぞれ特産化しようと再開した。

 伊那市の高遠そば組合は大寒の一月二十日、六百食分のソバの実を網袋に入れ、川辺を雪や氷が覆う冷たい川の流水に浸した。二月三日の節分に引き上げ、乾燥させて七月に同市高遠町内のそば店で提供する。

 信州大の井上直人教授(作物学)によると、ソバを冷水に浸すことで保存性が高まり、雑味が薄れる。血圧の上昇を抑え、ストレスを緩和させる効果があるとされるアミノ酸の一種、GABA(ギャバ)が三〜五倍に高まるという。

 江戸時代、高遠藩や高島藩によって献上された寒ざらしそばは、夏の土用向けだった。井上教授は「ウナギと同じように、夏を乗り切るために重宝されたのだろう」とみている。(竹田弘毅)

    ◇

 凍えるような寒さが続く信州の冬。厳しい気候を生かした食品の製造法や保存法が古くから根付いている。第二部「寒さ生かす知恵」は、今も各地の暮らしに息づく伝統を紹介する。

 

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