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長寿しなの 彩食記

<第1部 海なし県の魚たち> (10)諏訪湖のワカサギ

◆郷土の恵み守り継ぐ

諏訪川魚組合長・平出さんの店で販売されるワカサギの甘露煮と唐揚げ=諏訪市で

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 透き通るように銀色に輝くその小魚は、釣り人から「氷上の妖精」とも呼ばれる。諏訪湖の冬の名物として知られるワカサギ。諏訪地域では、しょうゆと砂糖で煮付けた濃厚な味わいの甘露煮、油で揚げて塩をまぶしたサクサク食感の唐揚げなどに調理され、家庭の食卓を飾ってきた。

 諏訪湖では昔からコイやフナ、エビなどの魚介類がよく取られてきたが、ワカサギが生息するようになったのは、一九一五(大正四)年に茨城県南東部に広がる霞ケ浦から卵を持ち込んだのが始まりだ。

 下諏訪町の湖畔に立つ「諏訪湖公魚(わかさぎ)発祥之地」の石碑には、その経緯が記されている。明治維新後に漁業が広く開放され、製糸業の発展に伴い人口が激増。「川魚の需要も増して乱獲され、魚類はすっかり減少枯渇した」という。物流が発達してない時代の山国にとって川魚は貴重なタンパク源。新たな水産資源を求めたことがうかがえる。

 諏訪湖漁協によると、大正後期から昭和初期にかけ、木枠に張った木の繊維にワカサギの卵を付着させ、水中に沈めて効率よくふ化させる方法を確立した。これにより、湖流入河川を遡上(そじょう)する親魚から採った卵をふ化させ、稚魚を湖に放流するサイクルができ、ワカサギ漁が定着した。

昨年末に正月用として特別に水揚げされたワカサギ。生き残った個体は大型化している=同市の諏訪湖漁協で

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 漁獲量は現在、年間二十トンほど。採卵量は二十億粒を超える。数年前には健全な卵を選別する装置も開発し、全国の湖沼に出荷する一大産地へと発展した。

 「諏訪湖産は県外のものよりもうまい」。諏訪川魚組合長の平出良作さん(79)は自慢げに語る。一九二六(大正十五)年創業の川魚店の二代目。副菜や酒のさかなとしてふだんから地域住民に親しまれ、おせち料理にも使われてきたワカサギは、土産や贈答用としての需要も高いという。

 ただ、若い世代があまり食べなくなったことが気掛かり。店では、唐揚げに使う塩をミネラル成分豊富な岩塩に変えるなど味を工夫してきた。「伝統の味を基礎に、時代に合った商品を作っていかなければ」と話す。

 諏訪湖のワカサギは昨年夏、生息数の八割が突然死んだ。湖底の貧酸素水塊が上昇し、湖内全体が酸欠状態になったことが原因とみられる。諏訪湖漁協の藤森貫治組合長は「何も対策を打たなければ、また同じことが起こりうる」と危機感を募らせる。

 諏訪湖の恵みであるワカサギを守り、郷土の味を末永く伝えていくには、その生息環境に一層目を向けていく必要がある。(中沢稔之)=第1部終わり

    ◇

 <諏訪湖のワカサギ> 漁獲量は1970年代前半に300トンを超えていたが、減少傾向をたどる。採卵資源の保護を目的に出漁日数や遊漁の釣り量を制限する「自主抑制」が導入され、今季は、昨夏の大量死により生息数が2割程度まで激減したことから、漁協は休漁とする異例の措置をとった。

 

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