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論壇時評

日米安保レジーム終焉 「国体」失い迫られる自立 中島岳志

 北朝鮮外交をめぐって、「日本は蚊帳の外」論が拡大している。中国・韓国の首脳が金正恩委員長と劇的な会談を行い、米朝首脳会談開催が模索された中、対話に冷笑的な態度をとり続けてきた日本が取り残され、協議の中核に加わることができていないのだ。主役だったはずの五月九日の日中韓首脳会談でも、安倍晋三首相の主張は十分に受け入れられず、直前に大連で行われた習近平国家主席と金委員長の会談に世界の注目が集まった。

 日本はアメリカと共同歩調を取ってきたつもりだった。トランプ大統領との蜜月を演出するために、繰り返し「ゴルフ外交」を行った。しかし、アメリカは北朝鮮との対話に動き、米韓FTA(自由貿易協定)改定交渉の際には、在韓米軍撤退の可能性を発信した。四月の日米首脳会談では、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限の対象から日本を外さないことが伝えられ、日本側に動揺が走った。

 アメリカは、日本をないがしろにする態度をとり続けている。それに対して、日本政府は必死でアメリカにしがみついている。そんな片思いの構図が浮かび上がっている。

 猿田佐世は『自発的対米従属』(角川新書)の中で、日米関係のゆがみと変化を指摘する。日米外交を左右するアメリカ側のキーマンは、少数の知日派に固定されてきた。そのため、政府関係者はせっせとワシントン詣でを繰り返し、彼らの意向をくみ取ることに努めてきた。これがアメリカからの「外圧」と言われてきたものだったが、猿田は知日派による日本に対する一方的な圧力という見方をとらない。

 彼女が注目するのは、日本の既得権益層が「日本製の“アメリカの外圧”」を使って、「日本国内で進めたい政策を日本で進める」という手法である。これを「ワシントンの拡声器効果」と呼び、日本の既得権益層とアメリカ知日派の共犯関係を指摘する。一部の人間の利害関係によって構成されたメッセージがワシントンから発信されると、それが日本に「アメリカの声」として伝えられ、「外圧」となる。この構造を日米双方が利用してきた結果、日米外交は閉ざされた空間で一部の人たちが動かすものになってしまった。

 この構造に大きな穴があいたのが、トランプ大統領の登場だった。これまでの知日派は、トランプ大統領と敵対的な関係にあったため、外交に参与することができなくなり、既存の共犯関係による談合外交が成立しなくなった。

 猿田は、日本が「対米従属」を脱却し、主体的な判断を行うチャンスだと見なす。「日本は、その気になれば、大概のことではアメリカの意見に従わないことができる。これが私の確信である」

 白井聡は『国体論−菊と星条旗』(集英社新書)および「対米従属の原因は『国体』にある」(『月刊日本』5月号)の中で、日本の「国体」の変化を指摘する。戦前・戦中の日本では国体の中心に天皇が存在した。しかし、現在の自称保守派は天皇の「おことば」を批判し、時に「天皇は反日左翼だ」と罵(ののし)る。一方で、対米従属を強化し、不平等な日米地位協定を抱きしめる。「この国の親米保守支配層にとって、いまや精神的権威は天皇ではなくアメリカへとスライドしている」。アメリカこそが「戦後の国体」になっているのだ。

 日本の政府要人は、「思いやり予算」や「トモダチ作戦」といった言葉遣いを通じて、日米の友情関係を強調してきた。そして、アメリカは日本を愛してくれているという「妄想」を振りまき、「戦後の国体」を強化してきた。しかし、これももう終わる。「戦後の国体」は「間もなく死ぬ」。

 日米関係の変化は、アメリカ重視派も認めざるを得なくなっている。藪中三十二(みとじ)と白石隆の対談「『ディール外交』には原理原則で対応せよ」(『中央公論』6月号)では、トランプ登場以降の変化を「特殊・例外的な一過性の現象」なのか、世界戦略の大転換なのか、しっかりと見極めなければならないとしている。もし在韓米軍が撤退するとなると、沖縄の米軍部隊削減の可能性がある。そうするとアジアの秩序が不確実なものとなり、安定性が揺らぐ。そんな懸念が示されている。

 私たちは日米安保レジーム(体制)の終焉(しゅうえん)に立ち会おうとしているのかもしれない。そうすると、日本は「戦後の国体」を失い、独り立ちしなければならなくなる。

 いま想定しておかなければならないのは、アメリカという後ろ盾を失った日本の動揺だろう。不安が増大し、パニックになることが十分に考えられる。歴史修正主義が暴発するのは間違いない。右派政治家の歴史認識の歯止めになってきたのはアメリカであるため、その箍(たが)が外れるとその言動に縛りをかけるものがなくなる。

 「日本は蚊帳の外」論は、中長期的には日本の大転換を含んでいると考えるべきだろう。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

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