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論壇時評

「立憲的改憲」論 解釈の歪曲 止めるために 中島岳志

 安倍内閣の最大の問題は、先人たちが共有してきた慣習や常識を平気で破ることである。安倍内閣は、内閣法制局長官について政権の意向に沿った人事を行い、集団的自衛権を認める解釈改憲を行った。憲法五三条の要件を満たしているにもかかわらず、強引な解釈によって臨時国会召集要求を無視した。これらは明文化されずとも「やってはいけないこと」と認識されてきた。政治家たちは慣習への信頼を共有してきた。

 日本国憲法はかなり短く、解釈の余地が大きい。だから、成文化されない部分は、年月をかけて確認されてきた解釈の蓄積を重視してきた。憲法の短さを不文律の合意や慣習によって補完してきたのである。

 現政権は、歴史の風雪に耐えてきた解釈の体系を強引に変えてしまう。共有されてきたルールを守らない。慣習を重んじるはずの保守派が、平気で慣習をないがしろにする。過去の蓄積に対する畏敬の念を欠如させている。

 このような政治の劣化に対応するためには、何をなすべきか。どうすれば慣習破壊の暴走を食い止められるのか。

 真剣に検討しなければならないのが、「長い憲法」への漸進的移行である。これまで不文律の合意として共有してきたものを、しっかりと成文化し、明確な歯止めをかける。日本はもうその段階にきているのではないか。

 この点で、山尾志桜里・衆議院議員が提起する「立憲的改憲」論は重要な意味を持っている。「立憲的憲法改正のスタートラインとは」(WEB RONZA 2017年12月26日)で山尾が問題視するのは、日本国憲法の「規律密度」の低さである。日本国憲法は分量が短いため、歯止め機能が不十分である。そのため「その行間を埋めてきた憲法解釈を尊重せずに、むしろ行間を逆手にとって解釈を恣意(しい)的に歪曲(わいきょく)するタイプの政権に対して、その統制力が弱い」。だから規律密度を高める改正が必要である。

 山尾が提起するのは、個別的自衛権を明文化し、その範囲を限定する憲法改正だ。集団的自衛権は認めない。「国会・内閣・司法、さらには財政面からなどのコントロール」を検討し、憲法による自衛権の制限を明確にする。さらに、憲法裁判所を設置し、恣意的憲法解釈を是正する手段を確保する。

 このような改正は、安倍内閣が進めようとしている「自衛隊明記」とは根本的に異なる。安倍改憲は「歯止めなき自衛権の根拠規定を憲法に新設すること」であり、断じて認められない。「憲法による自衛権統制規範力をゼロにするものであって、グロテスクな『最悪の憲法改悪』」として拒絶する。

 この議論に賛意を示すのが、伊勢崎賢治である。彼は安倍改憲を批判するとともに、護憲派のごまかしについてもメスを入れる。「憲法9条を先進的だと思ってる日本人が、根本的に誤解していること」(WEB現代ビジネス2月6日)では、護憲のための解釈改憲を厳しく批判する。

 現状において、個別的自衛権は憲法上、認められている。日本は他国からの攻撃に対して応戦する権利を有している。この自衛権の行使は、戦争にほかならない。

 戦争では、国際人道法違反としての「戦争犯罪」が生じることを想定しなければならない。しかし、日本には戦争犯罪を扱う法体系が整備されていない。「自らが犯す戦争犯罪への対処を、想定すらしない」

 なぜか。それは、自衛隊を軍隊と見なしてこなかったからだ。軍隊でない以上、軍司法制度は必要ない。そう見なされてきた。

 この重大な瑕疵(かし)こそ非人道的であると、伊勢崎は主張する。日本はジブチに自衛隊を駐留させ、地位協定を結んでいる。自衛隊が公務内外で起こす事故について、その裁判権をジブチ政府に放棄させている。にもかかわらず、過失を扱う法整備がなされていない。「これは詐欺である。極めて、非人道的な詐欺である」

 なぜこんなことが放置されてきたのか。それは「戦後ずっと、アメリカの軍事的管理下にあったこと」と深くかかわっている。日本は地位協定を一度も改定せず、「世界で唯一、平和時において軍事的主権をアメリカに委ねたままの親米保護国」である。だから、自分たちで軍事的責任を負うことを想定してこなかった。この対米従属こそ、非人道的な「詐欺」に無頓着な状況を産み出している。

 対米追随を強化すると同時に、立憲主義や不文律のルールをないがしろにする安倍内閣は、どう考えても危険である。国民による歯止めをかけるためには、立憲的改憲と地位協定改定をしっかりと議論の俎上(そじょう)にのせるべきではないか。「護憲」対「改憲」というイデオロギー化した二分法を超えた議論が求められている。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

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