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論壇時評

真の保守どこに  「守る」姿勢見つめる若者 中島岳志

 今回の衆院選では、「保守」という言葉が濫用された。自民党は綱領で「日本らしい日本の保守主義」を掲げているが、対抗する希望の党も綱領で「寛容な改革保守」を掲げる。立憲民主党も枝野幸男代表が「リベラルであり、保守」という立場を打ち出している。一体「保守」とは何なのか。

 政治や思想の世界で語られる「保守」の起源は、十八世紀イギリスの政治家エドマンド・バークが書いた『フランス革命についての省察』を嚆矢(こうし)とする。バークは、同時代のフランスで起きた革命に対して厳しい批判を投げかけた。

 バークによるとフランス革命を支えている近代啓蒙(けいもう)思想は、誤った人間観に依拠している。近代主義者は人間の理性を過信し、人間の努力によって理想社会の実現という「進歩」を獲得できると考える。しかし、理性は完全なものではない。どんなに頭のいい人でも世界のすべてを完全に把握することなどできず、過ちや事実誤認をくり返す。人間はどうしようもなく不完全な存在であり、人間によって構成される社会もまた不完全なものであり続ける。

 だとしたら、人間は何に依拠して社会をやっていけばよいのか。バークは人間の理性を超えたものを重視する。多くの庶民が共有して来た経験値や良識、伝統、慣習を大切にし、時代の変化に応じて徐々に変えていく。「革命」のような極端な社会改造には、理性へのおごりが含まれていると見なし、慎重に遠ざける。保守とは、歴史の英知に基づく永遠の微調整にほかならない。

 このような本来の保守思想の論理を前提とすると、自民党や希望の党のいう「保守」がいびつなものに見えてくる。安倍晋三政権は急進的な「レジームチェンジ」を訴え、「人づくり革命」の必要性を強調する。希望の党の小池百合子代表は「リセット」という言葉を使い、スピード感のある変化を求める。

 そんな中、非常に興味深い調査結果を報告する論考が発表された。遠藤晶久・三村憲弘・山崎新「世論調査にみる世代間断絶」(『中央公論』10月号)である。注目すべきは、十八歳から二十九歳の若者の「保守」認識である。彼ら/彼女らは自民党を「保守」とは見なしておらず、むしろ共産党を「保守」的な政党と見なしているというのだ。

 これは従来の枠組みから大きく逸脱する認識と言える。戦後長い間、多くの人は「自民党は保守、共産党は革新」と分類してきた。このフレームが若い世代では、完全に崩壊している。

 年長者は、若者の認識不足を嘆くだろう。「保守」の意味を理解していないと愚痴りたくなるかもしれない。しかし、この若者の認識は、正鵠(せいこく)を射ているように思えてならない。

 共産党は農家を守るためにTPPに反対し、グローバル資本主義から中小零細企業を保護すべきだと訴える。雇用の安定を促進し、最低賃金の引き上げによって、労働者の生活を守ろうとする。

 共産党の主張は、「守る」ことに力点が置かれる。極端な「チェンジ」や「リセット」を避け、歴史的に構成されてきた社会基盤を保護しようとする。極端な変化よりも、庶民の生活の安定を訴える。この姿勢が、若者の目には「保守的」と映るのだろう。それは、案外正しい認識なのではないか。

 この転倒をどう見ればよいのか。保守思想家の西部邁(すすむ)は「安倍首相は『真の保守』ではない! 西部邁氏が迷走政治を一刀両断」(「ダイヤモンド・オンライン」10月3日)のなかで、現在の政権与党を「真の保守」からの逸脱と見なし、批判する。

 西部は保守思想のエッセンスを概観した上で、「安倍首相は最初から保守ではなかった」と指摘する。その最大の根拠は、安倍内閣が「米国べったり」の政策を推進していることにある。

◆親米=保守は誤解

 西部の見るところ、米国という国家は、歴史的経験値の蓄積を欠いているため、本質的な保守思想が共有されていない。そのため、国家の基調が「古いものは悪いもので、新しいものは良いものだというジャコバン派の考えに近い」。しかし、冷戦下においては、「『米国側につくのが保守でソ連側につくのが革新だ』という政治の構図」が自明視された。ここに親米であることが保守であるという大きな誤解が生じた。

 にもかかわらず、保守を自任する安倍首相は「日米が100%の軍事同盟関係にあると悦に入る始末」である。日本国内には米軍基地が存在し、治外法権がまかり通っている。「今の安倍政権なんて、保守とはまったく何の関係もない」「戦後の日本人の愚かさ加減がにじみ出ていると言えるでしょう」

 多くの政治家が「我こそは保守」とこぞって主張し始めた今、「保守とは何か」という本格的な議論を展開する必要があるだろう。重要な選挙後の課題である。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

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