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ロボカップ2017名古屋世界大会

<ロボットのいる世界> (中)トヨタの思想

高齢者施設で実証実験が進むトヨタ自動車の「HSR」=横浜市鶴見区で

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 ソフトバンクのペッパーのような顔がなければ、名前もまだない。車輪のついた円筒型の物体が、インプットした経路や障害物の情報を頼りに、机やいすの脇をすり抜ける。横浜市にある特別養護老人ホーム「新鶴見ホーム」の休憩所でくつろぐ入居者は、不思議そうに目で追いかけていた。

 トヨタ自動車が二〇一〇年から開発する「HSR(ヒューマン・サポート・ロボット)」だった。研究チームは、施設に出向いてはテストを繰り返す。トヨタの車づくりの基本「現地現物」に従い、自らの目で確かめながら改善を進めている。

 この日は、介護施設から要望が多い巡回業務の機能を試していた。新鶴見ホームの介護職員、比留川(ひるかわ)欽也さん(31)は「夜勤は人手が薄い。ロボットの助けがあれば、優先順位の高い人のケアに時間を割ける」と製品化を待ち望む。その時期をトヨタは数年以内と掲げている。

 落ちているペットボトルや紙を拾う、棚にある物を取ってくる…。トヨタがHSRで開発中の技術はすべて、手足の自由が利かない障害者やお年寄り、人手不足に悩む福祉施設からの声に基づく。

 「人ができないことをサポートするのがロボットの役割だから」。パートナーロボット部の池田幸一主幹(53)は、障害者の身の回りの手伝いをする介助犬とHSRを重ねる。

 大事なのは人とロボットのすみ分けで、トヨタが自動運転で強く意識する考えと変わらない。あくまで運転するのは人間で、自動化は障害者ら交通弱者を助け、居眠りや操作ミスなど人間の弱点を補うことに重きを置いている。

 人手不足の解決もロボットに何でも委ねていいわけではない。この思想はHSRの外見に表れている。顔に当たる上部はモニターがはめ込まれ、二つのカメラのレンズは目玉を思わせなくもないが、無機質だ。

 池田主幹は「機能性を重視した結果です」と説明し、こうも付け加える。「ヒト型だと『何でもできる』と過度な期待を抱かせがち。HSRには感情も必要ない」

 十七年前、トヨタは工場で培った生産の自動化を生かそうと、人の役に立つロボット開発に着手した。〇五年の愛・地球博(愛知万博)でトランペットを吹くロボットを披露するなど、開発に時間をかけてきた。

 将来は、ロボットを自動車に続く中核事業にしたいが、人間の複雑な動きを再現する作業は容易ではない。そこでトヨタは一五年、外部との共同体を立ち上げ、現在、大学など二十三の研究機関にHSRを貸し出している。人工知能(AI)を研究する米子会社とも連携し、AIのレベルアップを急いでいる。

 ロボカップの名古屋大会では、家庭内の身の回りの支援を競う「@(アット)ホーム」に、HSRとペッパーをそれぞれ使う新リーグが設けられた。HSRリーグには豊橋技術科学大をはじめ日米など十チームが出る見通しで、ソフトウエア開発の完成度を争う。

 「技術の組み合わせによって、ある日突然、飛躍的に進化するのが、この世界」。池田主幹は、車と同じ“一家に一台”のHSRが暮らしを支える社会を思い描く。志がかなうまで自前主義にはこだわらない。

 

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