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鉄道まるっと切り抜き帳

路面電車、ビル群などせわしなく フィンランド・ヘルシンキ

街のランドマーク、ヘルシンキ大聖堂のそばを走る路面電車のトラム。市内観光では必ずお世話になる公共交通機関だが路線は非常に複雑だ=フィンランド・ヘルシンキで

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開業したばかりのヘルシンキ地下鉄・マティンキュラ駅のホーム。大学生がデザインした前衛的な天井が特徴=フィンランド・エスポーで

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 空港からヘルシンキに向かう直通電車の外は、一面の白銀世界。車窓からは、斜面でそり遊びを楽しむフィンランドの子どもたちの日常がのぞけた。ヘルシンキ中央駅に着くと、近代的なビル群やせわしなく走り回る路面電車(トラム)に交ざって、荘厳な歴史的建築物が違和感なく共存する。「バルト海の乙女」と称されるこの街を訪れたのは1月下旬。旅で出合ったのは「シス」と呼ばれる不屈のフィンランド魂だった。

 主要な観光名所が2キロ四方に集まるコンパクトシティー。中央駅から東へ10分ほど歩くと、眼前に白亜の巨大聖堂が現れた。街のランドマーク「ヘルシンキ大聖堂」は、1852年に完成したキリスト教ルーテル派の本山。中央の突き出たドームと古代ローマ神殿のような質実剛健な外観は独特の神秘性を感じる。

 大聖堂を持ち上げる大階段を下りた元老院広場には観光客が集まり、帝政ロシア皇帝アレクサンドル2世像とともに記念撮影に興じていた。夏季やクリスマスになると市場やコンサートといったイベント広場となる。

 昨年に独立100周年を迎えたばかりのフィンランドは、スウェーデンに650年、ロシアに100年もの間支配されていた歴史の面影があちらこちらに残る。例えば、公用語はフィンランド語とスウェーデン語があり、道路標識は両言語が併記されている。また、鉄道の線路はロシアの規格に合わせて造られている。敵軍に線路を使わせないようにする帝政ロシア時代の戦略に由来しているからだ。

 「日本人観光客が増えたのは、ここ10年くらいですね」。中央駅近くで土産物店「ノルディス」を営み、フィンランド在住30年になる氏家雅子さんが、近年の観光事情を教えてくれた。かつてフィンランドを訪れる日本人観光客はオーロラ見学がほとんど。状況を一変させたのは、2006年に公開された日本映画「かもめ食堂」。ヘルシンキで食堂を開いた日本人の主人公の、現地での暮らしや交流を淡々と伝えていく内容を通して、北欧デザインや街の魅力がじわじわと伝わった。

 家具やガラス工芸、テキスタイル…。09年に12〜14年の世界デザイン首都に選ばれたヘルシンキから生まれる北欧デザインは、シンプルで機能的と評価が高い。「フィンランド人はメード・イン・フィンランドに誇りを持っている」と氏家さん。一方、近年は生産コストを理由に、隣国エストニアなどに生産を委託する傾向にあるという。

 大聖堂の近くにあった別の土産物店にも立ち寄ると、男性店員が「うちの商品は全部自国産でハンドメードだよ」と声を掛けてきた。ほのかに甘く香る白樺(しらかば)のバターナイフや、取っ手にトナカイの角を使ったカップを売り込みながら「日本産には劣るけどね」とおどけてみせたが、自国産への強い矜持(きょうじ)は日本とよく似ている。独立100周年記念の限定生産品には、多くが「スオミ(フィンランドの別称)」と書かれていた。

 旅の終わりに西海岸沿いのシベリウス公園を訪ねた。気温は氷点下10度。朝から雪と風が激しくなる中、耐えるようにそびえ立つパイプオルガンのような記念碑と、気難しそうな顔をした彫像が鎮座していた。フィンランドの国民的作曲家、ジャン・シベリウスの顔だ。1899年、帝政ロシアの圧政に異議を込めて作られた交響詩「フィンランディア」は、独立運動に沸く国民の意識を高揚させた。そんな英雄へのオマージュとして造られた高さ10メートルの大作彫刻の愛称は「シス」。シベリウスの生きざまは、逆境に立ち向かうフィンランド精神の象徴として愛され続けている。

 文・写真 佐野公彦

 

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