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鉄道まるっと切り抜き帳

こたつ列車は人情も温か 三陸鉄道北リアス線

三陸の海が望める沿岸を復興の象徴として走る三陸鉄道=岩手県普代村で

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こたつ列車に突然現れた鬼「なもみ」=岩手県田野畑村で

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三陸の幸満載の「大漁舟唄御前」事前に予約を

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 東日本大震災による津波で300カ所以上の被害を受けた岩手県の三陸鉄道は、企画列車やオリジナル商品を販売するなどして、「復興の象徴」として走り続けている。久慈−宮古71キロを結ぶ同鉄道北リアス線で運行している「こたつ列車」に揺られながら、三陸の幸や景色を堪能した。

 大漁旗を振る駅員に見送られて久慈駅(同県久慈市)を出発した。車内は4人掛け用のこたつが設けられていて満員だ。外は積雪はないものの、気温は氷点下だったので、腰を下ろすと「ふー」とため息が出るほど心地よい。ほのかな温かさは、こたつならではだ。

 弁当や酒、お菓子をたっぷりと持ち込んだグループのにぎやかな声が響く。ゆっくり進む列車とは対照的に急ピッチで酒がすすみ、早くも赤ら顔の年配男性もいる。こちらは予約しておいた弁当をほおばる。ウニやアワビ、ホヤ、アイナメといった三陸の幸がたっぷりで、思わず顔がほころんだ。

 NHK連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地として知られる堀内(ほりない)駅(同県普代村)近くに差しかかると、視界が開け、晴れ渡った空と海が一望できる。波が海に突き出た岩場に激しくぶつかり、潮目が遠くまで続く。1隻の小型船が沖に向かっている。

 相席の男性と時折、言葉を交わしながら、海岸線に続く荒々しい岩場を見つめる。突然、通路をはさんだ隣の席から「よろしければ写真をお撮りしましょうか」と声を掛けられた。東京から訪れた20歳代の女性3人組だった。「三鉄に乗るのは初めてですが、こたつは実家に帰ったような雰囲気で落ち着きますね。沿線の人々も親切でびっくり」と話していた。お菓子を交換するなど「ご近所さん」との会話も弾む。

 長いトンネルに入ると照明が落とされ、秋田県の「なまはげ」に似た鬼が現れた。久慈市周辺では「なもみ」と呼ばれ、小正月に男性が鬼に扮装(ふんそう)して、家内安全や無病息災などを願う伝統行事がある。紙で作られた包丁を手にした「なもみ」は「うおー」と威嚇したものの、乗客は笑ったままで動じない。やがて写真に納まったりと大人気。手作り感いっぱいの演出に車内の雰囲気はさらに和んだ。

 岩手県宮古市田老(たろう)地区に差しかかった。前日、学ぶ防災ガイドの元田久美子さん(60)と立った防潮堤が見えてきた。同地区には、万里の長城といわれた巨大な防潮堤があったが、東日本大震災の津波はこれを破壊し、181人が犠牲となった。中心街だった場所には野球場ができていた。元田さんは「建設当初は複雑な気持ちでしたが、野球場から子どもたちの元気な声が聞こえてくるので、造ってもらってよかった」と語っていた。

 車窓から復興の進む町をながめながら、1、2階部分の鉄骨がむき出しとなった津波遺構「たろう観光ホテル」の前で元田さんが言った言葉を思い出した。「津波の恐怖は言葉だけでは伝えきれない。目に見える物をしっかり残すべきです」。やがて1時間半ちょっとの列車旅が終わり、宮古駅に降り立った。

 三陸鉄道は今回旅した北リアス線のほかに釜石−盛(さかり)の南リアス線がある。来年3月には、その間にあるJR山田線の宮古−釜石が三陸鉄道に移管され、南北のリアス線が1本になる。同鉄道営業課長の赤沼喜典さん(55)は「これからも、ぬくもりを大切にしながら、新たな企画列車を」と意気込んでいた。

 旅の最後は、震災後、約1カ月にわたって避難所となった宮古市の浄土ケ浜パークホテルから歩道を下り、夕暮れの浄土ケ浜に向かった。三陸を代表する景勝地で、白い岩山の上に松が根を張る。うっすらと紅を引いたような残照の空。安らかに凪(な)いだ海に手を合わせた。

 (文・写真 柳沢研二)

 

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