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鉄道まるっと切り抜き帳

ゆがみ数ミリ見逃さぬ保線の現場監督 名工建設・上田哲さん

線路のゆがみを視認する保線技術者の上田哲さん=JR関ケ原駅で

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 ひざを折り、体をかがめて線路と同じ高さまで視線を下げる。手元のデータでは真っすぐのはず。線路の修繕工事を手掛ける名工建設(名古屋市)の上田哲(43)=岐阜県大野町=が数秒間、目をこらすと、線路が上下に1〜2ミリほど浮き沈みしている様子がはっきりと見えてきた。

 この日はもともと別のゆがみを直す予定だった。現場に着き、線路を見渡すと修繕予定箇所から数メートル離れた場所で感じたかすかな違和感。上田はゆがみがあることを確かめると、すぐに携帯電話を取り出した。

 「こっちを先に手を付けた方が良い」。相手は名工建設が修繕を請け負うJR東海の保線責任者だ。現場監督として作業の変更を提案。了解を得ると、作業員たちに新たな工事の手順を指示し始めた。

 重さ数十トンの電車が、次々と行き交う。枕木を支える砕石が砕けたり、ボルトが緩んだりして、線路は時間とともにゆがんでくる。

 JR東海は定期的に検査車両を走らせ、そのデータを基に修繕する。直すべきゆがみは、「10メートル当たり上下左右に4ミリ以上ずれているもの」が基準。だが、上田は数字だけにとらわれることなく、現場に立ち、目で見てから修繕する場所を見極める。「ゆがみが小さくても、いくつか組み合わされば電車は揺れる」

 その判断は、経験に裏打ちされている。「いつまでも形に残るものを造りたい」との思いから、地元の工業高校の土木科で学び、1992年に名工建設に入社した。すぐに配属されたのは、通学中に踏切を渡っていた高山線の高架化工事だった。その後も東海地方の在来線や新幹線の現場を渡り歩きながら25年間、線路の工事一筋でやってきた。

 日ごろ電車に乗るときでも、先頭車両の運転席の後ろに立って数メートル先の線路のゆがみを調べ、最後尾の窓から保線作業員が手順を守って待避しているか確認する。かつては、単身赴任先の岐阜県高山市から自宅に戻るたびに特急列車の車輪の真上の席に座り、車両の揺れを体で感じて線路がゆがんでいないか確かめていたこともある。

 JR東海の保線責任者も「強いリーダーシップと仕事への情熱に、全幅の信頼を置いている」と話す。豊富な経験を見込まれ、日本の新幹線が初めて海外に輸出された台湾新幹線の工事でも、現場監督を務めた。初めての工事に戸惑う現地作業員に指示を出しながら、約25キロの区間を無事に完成させた。

 上田の判断は、乗客の安全・安心に直結する。「電車は動くのが当たり前。その当たり前を、僕たちが守らなければならない」。そんな使命感が、妥協を許さない姿勢を支えている。 

(石原猛)=文中敬称略

 

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