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鉄道まるっと切り抜き帳

美杉の「旬」でおもてなし  JR伊勢奥津駅「かわせみ庵」の弁当(三重)

地元の食材をふんだんに使った弁当を手にする中田かほるさん(左)と別所頼子さん=津市美杉町奥津で

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JR名松線の伊勢奥津駅 =津市美杉町奥津で

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 タケノコの木の芽あえ、ウドの酢みそあえ、タラの芽の天ぷら、アマゴの甘露煮…。弁当箱の中は、山里の恵みたっぷり。山菜の香りとほろ苦さ、やさしい甘さに煮付けられたアマゴが、空腹を満たしてくれた。

 名古屋駅から電車を乗り継ぎ、およそ2時間半。伊勢奥津(いせおきつ)駅(津市)は、松阪駅(三重県松阪市)から始まるJR名松線の終点だ。津市美杉地区の山あいにある。田園風景の中を走る1両編成の車両の旅は、鉄道ファンにも人気だ。

 美杉の旬がぎっしり詰まった弁当を味わえるのは、駅前の休憩所「かわせみ庵(あん)」。「都会から来た鉄道ファンにも評判なんよ」。休憩所を運営する中田かほるさん(71)が胸を張った。

 調理するのは、約5キロ離れたそば店「如月(きさらぎ)」を営む別所頼子さん(67)。古民家を利用するかわせみ庵は調理場がないため、事前に注文を受けて如月から運ぶ。

 山菜は全て、別所さんが用意する。「ここで生まれ育ったから、旬の山菜が採れる場所は分かる」と、調理する前日の昼休みに近くの山に入る。そのため、山菜のメニューは日替わり。それに、名物の1つで地元で養殖されたアマゴの甘露煮も彩りを添える。「美杉らしいお弁当でしょ」。中田さんが顔をほころばせて運んでくれた。

 かわせみ庵がオープンしたのは2009年3月。「足を休める場所が駅前にほしい」という観光客の声を受け、地元商工会の女性部長を務めていた中田さんが有志と整備した。

 別所さんの弁当の評判も手伝って、少しずつ観光客にも知られるようになっていた7カ月後、状況は急変。台風で線路に土砂が流入するなど、名松線は大きな被害を受けた。過疎化による乗客減もあり、伊勢奥津までの一部区間17・7キロは復旧工事がされないまま。そのまま廃線とする案も検討された。

 駅前を終点とするバスが運行したため、かわせみ庵を開けて弁当の提供も続けた。だが、「乗降客の姿がなく、雑草が生い茂る線路を眺めるのはつらかった」と中田さんは振り返る。

 しかし、存続を願う住民や鉄道ファンが約11万6000人の署名を集め、JR東海に提出。中田さんも署名集めに率先して励んだ。過疎化と高齢化が深刻な美杉には、名松線を生かした誘客が欠かせないと思うからだ。その熱意に押される格好でJRと地元の三重県、津市が費用を分担し、昨年3月26日、6年半ぶりに伊勢奥津駅に列車が入ってきた。

 新緑の5月は、美杉が1年で一番鮮やかな季節。「腕によりを掛けてもてなしたい」と、口をそろえる2人の言葉にも自然と力が入った。

(添田隆典)

 伊勢奥津駅 1935(昭和10)年開業。現在の駅舎は2005年に建て替えられた。構内には蒸気機関車(SL)に水を補給した給水塔が残る。

 かわせみ庵 営業は水、土、日曜の午前8時半〜午後3時。事前予約があればほかの日も営業。弁当は1週間前までに予約。値段は600〜1500円。(問)中田さん=電090(4083)8550

 

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