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シリーズ「あなたも騙される」 〜実録ニセ電話詐欺〜

6 加害者…「飛ばし携帯」の手配屋 加害者…「かけ子」の元組員

 シリーズ特集「あなたも騙(だま)される」〜実録ニセ電話詐欺〜の第六回は、これまでと趣を変え、「騙す側」に焦点を当てる。取材に応じたのは犯人グループの「かけ子」だったという元暴力団組員の男。中国に拠点を置き、日本にニセ電話をかけ続けていた。別の男は、詐欺電話に欠かせない架空名義の携帯電話の入手と販売に関わった経験を吐露した。

「1日200万円稼げる」

 「いい仕事がある」。暴力団を脱退して食いぶちを探していた昨年六月ごろのことだ。東京都内に住む五十代の男によると、そう誘ったのは先輩の元組員だったという。

 中国人マフィアと手を組んだニセ電話詐欺で、ニセ電話をかける「かけ子」の仕事だった。「一日、二百万円は稼げる」と言われ、二つ返事で引き受けた。

 集合場所は成田空港。先輩と、先輩がほかに集めた男が二人いた。当然、自己紹介はしない。

 行き先は中国福建省の省都・福州市だった。二十階以上はある高層マンションの一室に、すでに「かけ子」の日本人五人が電話にかじりついていた。日本語が堪能な中国人も二人。使ったのは、インターネット回線で通信料が安く、発信元が特定されにくいIP電話だった。

 仕事は午前八時から午後四時ごろまで。毎朝、かけ子の中国人リーダーが「独り暮らし老人リスト」と書かれた名簿をパソコンで印刷する。名前、住所、電話番号が地域ごとにまとめられており、一枚百人の紙を三〜五枚渡された。

 ニセ電話にはシナリオがあり、その通りに演じろという。男は警察官役だった。

 男「実は、あなたの口座が詐欺集団に勝手に使われています。銀行内部に犯人と組んでいるやつがいて、銀行協会と極秘で捜査しているので協力してほしい。これから協会の者に電話をかけさせます」

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不安をあおる話し方

 何度も繰り返すうち、だんだんこつがつかめてくる。大きく強い口調の方が不安をあおりやすく、少し丁寧さをミックスすると警官ぽく聞こえるようだ。

 信じ込んだ様子で、ほかに在宅者がいないことが確認できたら、銀行協会職員役の中国人に伝える。どこで学んだのか、日本人同様に日本語を話す。

 職員役「口座が凍結されますので、銀行協会が仮口座を作ってお金を移すようにしています。一度引き出し、当協会の担当者に預けてください」

 このとき、念押しを忘れてはいけない。

 職員役「銀行内部に犯人がいるから、窓口で詐欺を疑われたら住宅のリフォームと言ってください」

 ここまで成功すると、かけ子の中国人リーダーが日本の「受け子」グループに連絡する。覚えがあるだけで岐阜、滋賀、和歌山など日ごと、狙う地域を定め、受け子グループを待機させていた。受け子がターゲットの現金の引き出しを確認し、自宅に戻ったころを見計らって職員役が再び電話をかける。

 職員役「担当者の名前は○○です。職員番号は××です」

 このとき、何だかんだと話を引き延ばす。その最中に「受け子」が訪問することで、余計な疑問を抱いたり、警察へ通報されたりするリスクを避けられる。

 かけ子の報酬は詐取金の10%。翌日、リーダーが日本円で渡してくれる。そのうち二〜三割を職員役の中国人に分けた。

 この男がいたのは一カ月ほど。グループ全体では一日平均で三件程度を成功させ、一千万円以上を騙し取ったという。電話をかけるマンションに寝泊まりし、食事は指定された飲食店で食べた。マンションは警察署の近くで「外では、あまり日本語を使わないように」と注意された。

騙せば「よっしゃー」

 仲間の「かけ子」には二十代らしき若者もいた。休憩も取らずに電話をし続け、成功すると「よっしゃー」と歓声を上げた。大学卒業後に就職できなかったという若者は「ビジネスですよ」と言い、数百万円を手に、男より一足早く帰国したという。

 男は取材に「自分の母親が騙されると思うと、やりたくなかった」と話したが、本音かどうかは分からない。

 男は、中国人リーダーがこう、うそぶいたのを覚えている。「中国で中国人を騙すと死刑になってしまうが、日本にいる日本人を騙しても逮捕されない」

◆偽造「見破れない」

 中国の事例ではIP電話を使っていたが、国内のニセ電話詐欺で犯人グループが利用するのはほとんどが架空名義で利用者の身元が分からない携帯電話だ。

 俗に“飛ばし携帯”と呼ばれるが、それを専門に売買するグループに最近まで関わっていた「四十七歳」という東京都内在住の男が記者に手口を明かした。

健康保険証が狙い目

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 電話契約に必要な身分証は、写真のいらない国民健康保険証が狙い目だ。まず過去に面識がない「金のないやつ」を見つけ、違う自治体に転入届を出させる。実際に引っ越す必要はなく、転入先は人が住んでいない場所ならどこでもいい。これで、その自治体が発行する真新しい保険証が手に入る。

 詳細は明かさなかったが、男によると、特殊なシールを貼って保険証のカードを書き換える方法があるという。手間や偽造を見破られる恐れを避けるため、変更するのは誕生日や名前の一部だ。例えば「中日太郎」が本名なら、「中田太郎」や「中日大郎」という架空の人物が出来上がる。

 「金のないやつ」に偽造保険証で銀行口座を開かせ、携帯電話販売店へ。身分証と口座があれば契約はできる。プライベートと仕事用など一度に複数台を契約しても疑われない。

 販売店側には本人確認の義務があるが、男は「ほとんどは、保険証をコピーするだけ。まあ、じっくり見ても見破れないと思うけど…」と話す。

1台数万円で売れる

 こうした飛ばし携帯は犯人グループに、一台数万円で売れるという。使えるのは未払いで利用が停止されるまでの一カ月ほど。犯人グループは詐欺に使う携帯をひんぱんに捨てるので需要に切れ目はない。仮にかけ子が捕まり、捜査が及んだとしても「金のないやつ」まで。男は「自分は大丈夫」と自慢げに語り、こう続けた。「被害者をかわいそうと思ったらできない。そういう感情は持たない」

◇小宮信夫・立正大文学部教授(58)=犯罪学

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 元手が安いIP電話が広まり、ニセ電話詐欺に距離は関係なくなりました。中国に拠点を置かれると、捜査側がたどり着くのは相当難しい。日本・中国間は、日韓に比べて捜査協力が進んでいないからです。闇の世界では、日中間の結び付きが強まっています。ある意味、政治の結び付きが弱いことで、詐欺がやりやすい状況がつくられているともいえます。

 近年は各地で暴力団排除条例が制定され、みかじめ料(あいさつ料)など暴力団の資金源は取り締まりが厳しくなっている。暴力団員やその関係者にとっても、効率的に大金が手に入り、逮捕のリスクが低いニセ電話詐欺は、いい資金源になっていると思われます。「脅し」から「騙し」へ戦略的に移行が進んでいる。

 詐欺の電話に欠かせない飛ばし携帯ですが、対策はいたちごっこです。2006年に携帯電話不正利用防止法が施行されて本人確認が義務化されましたが、偽造された身分証を見抜くのは難しい。携帯電話の利用料を前払い制にするといった方法も考えられますが、利便性と矛盾し、経済活動を阻害するため反対の声も多いでしょう。

 ニセ電話詐欺は今後さらに国際化、巧妙化が進んでいくと思われます。ハードの対策には限界があり、やはり改善の余地があるのは自己防衛です。

◆捕まるのは「受け子」

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 ニセ電話詐欺の検挙人数をみると昨年が千七百七十四人で過去最高だった。警察庁によると、金銭を騙し取る形態が振り込み型から手渡し型に移行するにつれ、直接、カネを受け取る「受け子」が逮捕されるケースが増えているという。

 逮捕者のうち三〜四割は今回、紹介した男のような元組員らを含む暴力団の構成員や関係者だった。受け子は暴力団とは無関係なアルバイト感覚の若者ら「捕まってもいい」人材が選ばれることが多く、逮捕を免れている犯人グループの中核には、さらに大勢の暴力団系の人間が潜んでいる可能性が高い。

 今年上半期に全国の警察が急襲し、壊滅させた拠点は十三カ所あるが、北海道の一カ所を除き、すべて東京を中心とする関東地方だった。これまで海外で拠点が確認された国は中国だけで、警察官に成り済ます手口が特徴だ。特定のグループが犯行を繰り返している可能性もあるが「実態を把握できていない」(警察庁)のが実情で、今後、拡大する恐れは否定できない。

 

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