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シリーズ「あなたも騙される」 〜実録ニセ電話詐欺〜

5 被害者…名古屋の男性(76) 被害額…300万円

 シリーズ特集「あなたも騙(だま)される」〜実録ニセ電話詐欺〜の第五回は、架空の会社を登場させて高配当などをうたう「うその投資話」の事例を紹介する。名古屋市の男性(76)はいったんは引っ掛かったが、その後、警察の「騙されたふり作戦」に協力。見事に「受け子」と呼ばれる犯人グループの男一人の逮捕につなげた。

名義貸すだけ 

 名古屋市の無職男性は、事件を思い出すたび、情けなさで頭を抱える。

 昨年十月二十五日のことだった。「株式会社 日成」なる会社から、太陽光パネルの写真が写り込んだダイレクトメール(DM)が届いた。表題は「太陽光発電会社の転換型新株予約権付社債購入について」。無論、実在しない会社だが、DMには会社紹介などもきちんと記され、男性が疑問に思うことはなかった。

 翌日、見計らったように社債仲介業者という「株式会社ミツワのヤベ」を名乗る男から電話が入る。このヤベ、その一カ月前にもDMが届いていないかと電話してきたことがあった。そのときは届いていなかったがこんどは…。

 ヤベ「当社の顧客のマツシタさんが買いたいと希望されているが、日成からのダイレクトメールを受け取った人だけが社債を購入できる。すごく条件のいい会社なんです。名義を貸していただくだけで、迷惑は掛けません」

 マツシタは社債百口、三千万円分の購入を望んでおり、名義を貸すだけで五十万円の謝礼をくれるという。

 男性「うーん、申し込むだけなら…」

 欲もあったが、しつこく頼まれ、助けてやろうかという感覚だったという。

 二日後、ヤベから電話が入り、上司のヤマザキという男と代わる代わるこんな内容のことを話した。

 ヤマザキ「マツシタさんが名義を間違えてお金を振り込んだため、口座が凍結されている。マツシタさんは海外に行っていて十四日後まで帰ってこない」

 ヤベ「(購入代金の一割に当たる)手付金三百万円を納めてくれないか。マツシタさんが帰ってきたら返すから」

 そもそも法令では他人名義での取引は禁じられており、業者が勧誘の電話をすることもあり得ないのだが、男性には投資の知識も経験もなく、納得させられてしまう。

 十一月一日、自宅に男がやってきた。スーツにネクタイ、黒いかばんを手にしたサラリーマン風。礼儀正しく玄関先で靴をそろえ、丁寧な言葉遣い。差し出した名刺には「日成営業部長 柳田義郎」とあった。

他人に話すな

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 居間に座り、男が社債券を取り出し、男性は帯封が付いたままの三百万円を渡した。会社員時代からためていたへそくり。前日に金融機関の窓口で預金を下ろす際、ニセ電話詐欺を疑う行員に使い道を問われ、「息子が車を買うので購入資金に」とうそをついた。限られた人だけの特別な取引で「他人には話してはならない」と、言い含められていたからだ。

 三百万円を渡す場には、妻(73)も同席した。

 妻「そのお金、戻ってきますか」

 男「はい。戻りますよ」

 はっきりそう言い、ものの五分もたたずにスッと席を立った。

 「詐欺じゃないか」。妻にはそう思えてならず「他人に漏らすな」と言う男性をよそに最寄りの警察署へ相談に出向いた。名刺の住所に「日成」なんて会社はない。男性もようやく目が覚め、署の担当者は夫婦にあることを持ちかけた…。

 三百万円を渡してから数日後、また別の男から電話があった。「名義貸しが発覚した。インサイダー取引でとがめられるかもしれない。社債を実際に購入してほしい」という体で、さらに金を求める内容だ。男性は通話を録音しながら応じてみせた。

 十一月十二日、再び自宅に前回と同じスーツ姿の男が現れた。もちろん、男は知らないが、居間の隣室に数人の捜査員が控え、ビデオカメラを回していた。

 男性「お金を取ってきますよ」

 これが合図だった。居間になだれ込んだ捜査員が男に飛びかかる。

 捜査員「確保!」

 警察の「騙されたふり作戦」が成功した瞬間、男は何が起きたか分からない様子でぼうぜんとしていた。

受け子は末端

 詐欺罪で逮捕、起訴された男は二十九歳。当然だが「営業部長 柳田義郎」は偽名だった。

 現金手渡し型のニセ電話詐欺で、カネの受け取り役は「受け子」と呼ばれる。犯人グループの中では末端に位置づけられ、グループの全容を知らないことも珍しくない。男は「詐欺とは知りませんでした」と無罪を主張した。

 起訴状や名古屋拘置所で面会した記者に語ったところによると、男は岩手県久慈市出身。地元で就職したが長続きせず、上京して新宿・歌舞伎町のキャバクラ店員になったころ、「ゆうきさん」と呼ばれる男性客と知り合った。名前か、名字かも分からないが、スーツをパリっと着こなし「格好良かった」。

 昨年春ごろ、病気で店を休みがちに。生活費は同居する彼女頼み。ゆうきさんに相談すると、いい仕事を紹介してくれるという。ニセ電話詐欺も勧められたが男は「警察に捕まりたくない」と断ったと主張する。そのうえで紹介されたのが「社債券と金を交換する仕事」だったという。

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報酬は6万円

 実際に男に指示したのは自称「日成」のタカハシ。すべて電話で、一度も会っていない。東京駅構内のコインロッカーで社債券を受け取り、新幹線で名古屋へ。言われた通り、偽名の名刺を見せた。東京に戻ると、歌舞伎町の路上で、やはり見知らぬ人間に三百万円を渡した。その際にもらった報酬は六万円だった。

 八月に出た判決は懲役二年(求刑二年六月)。「偽名を名乗らなければ成立しえない犯罪であり責任は大きい」と断罪され、男は控訴した。

 騙された男性には男の両親から被害金三百万円を弁済したいとの申し出があった。「彼も騙された面があるのかもしれない」。法廷に通ううち、そう思うようになったという男性は三百万円のうち百万円の受け取りを辞退した。「若いんだから、立ち直るチャンスはある」と男性。控訴審の判決は十二月十五日に出る。

◇枡野龍太・愛知県警捜査第二課長(33)

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 ニセ電話詐欺対策の目的としては発生をゼロにすること。まず引っ掛からないでほしい。少しでも怪しいと思ったら、すぐ警察に連絡してください。無理強いすることはありませんが、皆さんの協力があれば「騙されたふり作戦」で犯人を逮捕することもできる。実際にそうした逮捕者は年々増えています。

 犯人グループは一般的に、詐欺の電話をかける「かけ子」や金を受け取りに行く「受け子」、リーダー役として携帯電話や口座などを調達する「金主」に分かれます。役割分担され、個人同士のつながりは薄い。全容解明が難しい構造上の問題があります。

 かけ子は大抵、サラリーマンのように、毎日朝9時に出勤して午後6時に帰る。小部屋で電話し、互いに顔を合わせない。受け子は誰でもできる日雇いバイトのような立場のため、かけ子や金主が誰なのか、知らないケースが多い。

 たとえ知っていても、報復を恐れて話さない場合もあります。「幹部のことを話せば殺すと脅された」という供述も聞きました。恐怖心による統制もグループの全容解明が難しい理由の一つです。

 手軽に大金を稼ぎたいと考え、ニセ電話詐欺に魅力を感じる若者がいるかもしれませんが、末端は使い捨てにされ、金主だけが甘い汁を吸う。

 つまり、ハイリスク・ローリターンなのです。携帯電話や銀行口座を売るのも含め、絶対に加わらないでほしい。

◆社債や株、複雑な手口

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 うその投資話を持ち掛けて金銭を騙し取る手口は警察庁が統計を取り始めた二〇一〇年以降に急増し、ニセ電話詐欺(特殊詐欺)の中でも被害額ではオレオレ詐欺と一、二を争う。

 「値上がり確実」「今だけ」などと社債や未公開株の購入を勧め、言葉巧みに手数料などを騙し取るのが基本的なパターン。警察庁によると、今回の男性のケースのように事前にDMを送り付けたり、偽の社債券を用意したり比較的、手の込んだ手口が特徴で、オレオレ詐欺と比べ、一件当たりの被害も多額になる。東京や名古屋など都市部での被害が目立ち、株式投資の経験者が狙われることも少なくないという。

 対策としては勧誘してきた業者や、投資先の企業の実在を確認することなどが挙げられるが、何より「今すぐ」「必ず」多額の利益を得られるような投資話は詐欺を疑うべきだ。

 金銭の受け渡し形態では手渡し型が目立ち、実際に騙し取るまで時間を要するケースも多いため、被害者が詐欺の進行中に気付いて警察に通報した場合、犯人の逮捕につながる可能性は高い。

 

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