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シリーズ「あなたも騙される」 〜実録ニセ電話詐欺〜

4 被害者…神奈川の80代夫婦 被害額…800万円

 シリーズ特集「あなたも騙(だま)される」〜実録ニセ電話詐欺〜の第四回は最近、被害が増大している手渡し型のオレオレ詐欺に騙された神奈川県の老夫婦や、宝くじ詐欺に遭った愛知県一宮市の男性の実例を紹介する。事件のその後に注目すると、金銭を失うだけでなく心も傷つけたり、被害が被害を招いたりする詐欺の実態が見えてくる。

警察官から

 神奈川県で二人で暮らす八十代の老夫婦が騙されたケースは内容を詳細に知る会社員の息子(54)が語ってくれた。両親は今も消沈したままだという。

 両親宅の電話が鳴ったのは今年二月十二日朝だった。男の声で東京・品川署の警察官だと名乗ったそうだ。

 警察官「息子さんがなくされたかばんが届いています。連絡先として、こちらの電話番号がございました。息子さんから電話があったら伝えてください」

 十分後、自分、つまり息子を装った男から電話があり、母が話した。

 男「コンビニのトイレにかばんを忘れちゃって…」

 母「さっき品川署から連絡があったよ」

 男「実は、かばんに二千三百万円の小切手があって…。警察に取りに行けば大丈夫なんだけど、今、仕事で動けないんだ。今日中にお金を工面しなきゃならない。お母さん、ごめん、助けてくれないか」

 泣きながら何度も頼み込む男。かばんに携帯電話を入れたままだと言い、息子に電話をかけないよう予防線を張った。続いて同僚という男が登場する。

 同僚「○○さん(息子)には大変お世話になっていて、私も母や親類から千五百万円を工面しましたが、八百万円足りない」

 男「仕事で東京を離れられない。部下が取りに行くから渡してほしい」

部下だという女(右)は紙袋を受け取るとすぐに立ち去った(イメージ)

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 両親はタクシーで銀行へ急ぎ、預金から八百万円を引き出した。その際、窓口の行員に「詐欺ではないか」と注意されたが、耳に入らなかったそうだ。両親ともに「息子と何回も電話している」と突っぱねた。

 待ち合わせ場所に現れたのは、部下だという女だった。両親が乗ってきたタクシーの後ろに回る。ちょうどドライブレコーダーに写らない位置だった。母が分厚い札束が入った紙袋を渡すと、すぐに立ち去った。

その後

 両親の事件を証言した会社員は離れて暮らす一人息子。「いずれ自宅近くの老人ホームに両親を呼び寄せようと思っていた」という。事件で、その思いは強まったが、話を持ち掛けるたび、母はちゅうちょする。費用のことを心配しているのだろう。「あの八百万円があれば…」と決まって言う。

 長年連れ添った夫婦の絆にも傷が残った。父は電話の声が聞きづらく、犯人側とはほとんど母がやりとりした。事件後、母は「どうしてまともに対応してくれなかったの。一緒にバタバタして…」と父に当たり散らすように。

 両親ともにしばらくは電話を怖がり、息子が実家に立ち寄ると、手にしたかばんから目を背けた。一家の大黒柱として気丈な性格だった父だが「俺はだめだ」と叫び、自分の頭を壁にぶつけたこともあるという。「ますます弱くなった気がする」。元の平穏だった家族に戻れるのか息子は不安だ。

男性に送られてきた「秘密保持誓約書」。こうした“小道具”で信用させるのは常とう手段だ

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被害者…一宮の男性(71)被害額…105万円

当せん番号

 当たったためしはないのだが、愛知県一宮市の自営業男性(71)はときどき、ロト6を一、二口(一口二百円)購入するのがささやかな楽しみだった。

 ちょうど一年前になるが、どこで調べたのか、男性の携帯電話が鳴った。「ライアンスの森山」と名乗った男は驚くべきことを話し始める。

 森山「ロト6は政府によってつくられた作り物。一等は当たらないようにできています。当社では、特別会員を募集しています。会員になれば、二等の当せん番号を教えます」

 もちろん、当せん番号は機械で無作為に決まるため、事前に分かることはあり得ない。しかし、男性は警戒しつつも頭でそろばんをはじいてしまった。当せん口数によって額に幅はあるが、二等は一千万〜四千万円。心の内を見透かしたように、自称・森山が続ける。

 森山「○○さん(男性の名前)は今、どんな目標がありますか」

 七十歳を過ぎた男性には、地域の高齢者が集まれるサロンを開くという夢があった。老後の蓄えもほしい。森山に問われるまま、住所や家族構成、職業、負債の有無など、個人情報を教えると、しばらくして上司の松岡なる男から電話が入った。

 松岡「おめでとうございます! 会議で○○さん(男性の名前)が特別メンバーに推奨されました」

 ただし、供託金として三百五十万円が必要という。森山が畳み掛ける。

 森山「絶対当たります。借金してでもやった方がいい。ローン会社を紹介しますよ」

 男性は知人に三十万円を借り、手元にあった事業の運転資金と合わせて用意できた五十五万円を振り込んだ。残りは会社が補助してくれると説明された。

 迎えた抽せん日。森山から連絡はなく、電話は不通になっていた。

その後

 一度、ニセ電話詐欺の被害に遭うと“カモ”として個人情報が名簿屋や犯人グループ間で売り買いされることがある。一宮市の男性には次々と新たな電話がかかってきた。

 今年一月には「第一セキュリティーの谷沢」と名乗る男から。同じ手口で、指示通り二十二万円を支払ってしまった。

 二月は「ニベルの斎藤」から。「もう騙されないよ」と警戒する男性に斎藤はこう言った。「何で私が電話するまで待ってくれなかったんですか。絶対にうちは間違いない。供託金も戻りますから」

 今度こそ本当かも…。欲に駆られたと言えばそれまでだが、さらに二十八万円。三回で計百五万円を騙し取られ、夢だったサロン開設どころか「人生真っ暗だよ」。

 ようやく、きっぱりと断ったのは五月の電話。「ロト6の詐欺被害に遭った人を集めています」。被害回復をうたい、手数料などを騙し取るのもよくある手口で、今もたまに同様の電話が、かかってくるという。

◇辰野文理・国士舘大法学部教授(被害者学)

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 ニセ電話詐欺の対策は「被害に遭わないように」という呼び掛けがほとんどです。ただ、注意できない手口を考えて狙ってくるわけですから、「注意すれば防げる」といった呼び掛けは、逆に被害者を追い込んでしまう面もあります。被害者が自分の不注意を責め、恥ずかしさや後悔の念を強く抱えてしまう。誰も信じられないと、人間不信に結び付く可能性もある。

 各地にある被害者支援センターや消費生活センターは、金銭的な被害回復の相談が中心で、精神的ケアに取り組んでいるところは、おそらくないでしょう。あまり表面化していないし、十分な対応も取られていない課題です。

 では、家族や周囲はどのように支えればいいのか。多くの人は「ちょっと確認すれば良かったのに」と正論で問い詰めると思います。誰よりも悔やんでいるのは本人で、それでは精神面の被害が回復しにくくなる。「自分を責めないで」「相手が悪いんだから」と接してあげてください。

 ロト6詐欺の被害に遭った男性についてですが、被害者を集めた“カモリスト”の存在は確認されており、一度、被害に遭うとさらに「攻撃」されるリスクは高まる。最低限、電話番号は替えてほしい。

◆ギャンブル情報詐欺急増 年齢、性別に関係なく

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 宝くじや、競馬、パチンコなどで確実にもうかる情報を教えると、手数料などを騙し取るギャンブル情報詐欺は最近になって登場し、被害が拡大している。

 警察庁によると、二〇一〇年ごろから目立ち始め、その年に約三億四千万円だった被害額が昨年は約三十一億四千万円と十倍近くに膨れ上がった。被害者の内訳をみると、高齢の女性が多いオレオレ詐欺と違い、年齢、性別に大きな差がない。ニセ電話詐欺に遭うのは高齢者−というイメージにとらわれては危険だ。

 ギャンブル情報の中でも今回、愛知県一宮市の男性が騙された「ロト6」をめぐる詐欺は代表的な手口で、犯人グループがインターネットで当せん番号を確認後、翌朝の新聞で報じられる前に「当せん番号を当ててみせます」と言い、被害者を信用させることも多い。

 一方、オレオレ詐欺では現金自動預払機(ATM)を使った振り込め型から、直接金銭を受け取る手渡し型への移行が進んでいるが、神奈川県の老夫婦のように「かばんを忘れた」と騙されるのは主に関東で増えている要注意のケース。すぐに戻ってくると信じ込ませ、振込額に規制のあるATMも使わないため、被害が多額になりがちだ。

 

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