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シリーズ「あなたも騙される」 〜実録ニセ電話詐欺〜

3 被害者…名古屋の女性(67) 被害額…99万7312円

 シリーズ特集「あなたも騙(だま)される」〜実録ニセ電話詐欺〜。第三回では、ほんのちょっとした欲につけ込まれ、還付金詐欺にあった女性(67)が実体験を語ってくれた。犯人グループは現金自動預払機(ATM)を巧みに操作させ、短時間で多額の金銭を騙し取った。

2万円返ってきます

 いま振り返れば、ささやかな欲が目を曇らせたのかもしれない。四月四日午前十時半ごろ、名古屋市内の無職女性宅の固定電話が鳴った。買い物に出掛けようと思っていたところだった。

 男「区役所の○○ですが、社会保険事務所から医療費を還付するという連絡が来ました。二万●千円(記憶が不明確)の還付金があり、すぐ手続きしないと期限が切れてしまいます。社会保険事務所に電話してください」

 区役所職員を名乗った男はフリーダイヤルだと言って「03〜」で始まる電話番号を告げた。

 女性「東京の番号ではないですか」

 体調が優れず、思考力が鈍っていたという女性は、変だなと思いながらも、言われた番号にかけた。社会保険事務所の職員を名乗る別の男が出て、同じような説明を繰り返す。言葉の端々に東北出身者のようなイントネーションを感じた。

 女性「病院に通っているけど、還付金がもらえるような高額ではないよ」

 男「五年さかのぼって還付しているんですよ」

 高齢者が数年さかのぼれば思い当たることは多いだろう。女性も四〜五年前、目の病気などで入院し、三十万円ほど治療費を支払ったことがあった。確かに、高額医療費の還付を申請していない。(少しでも戻ってくるのなら…)。心がちょっとだけ弾んだ。

郵便局ではダメです

 男「還付金を振り込みますので、コンビニのATMに行ってください」

 女性「いつもコンビニのATMは使わないのよ。郵便局はダメ?」

 男「郵便局はダメなんです」

 女性「銀行はどう?」

 男「窓口を通すと、手続きが面倒になりますから。窓口のないATMはございませんか」

 医療費や税金の還付手続きで、金融機関のATMを操作することはあり得ない。さらに言えば、社会保険庁の廃止に伴い、社会保険事務所は存在しないのだが…。そんな事情は知らず、女性は言われるまま自転車で十分ほどのスーパーへ向かった。駐車場の一角に無人のATMコーナーがある。他に利用客はいなかった。

 携帯電話を左耳に当てながら、男の指示を仰ぐと、画面の振り込みのボタンを押せという。

 女性「何で私が受け取る立場なのに、振り込まなきゃいけないの?」

 男の説明によどみはなかった。

 男「全国で一括して一つの口座にまとめ、その口座から振り分けています。そのための手続きです」

 よく聞けば、何のことだか意味不明なのだが、優しそうな声、丁寧な話しぶりで流れるように説明され、本当っぽく聞こえてしまう。(ひょっとして詐欺じゃないか。でも、本当だったら疑うのは悪いし…)。考えあぐねるうち、男は東京都内にある信用金庫の口座番号を打ち込ませ、さらに言葉をつないでいく−。

4、9、8、6、5、6

冷静に見れば、数字は振込額だと分かる

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 男「今から読み上げる数字を入れてください。4、9、8、6、5、6」

 指が勝手に動くような感覚だった。女性にとっては意味の分からない数字の羅列。しかし、これは振込額だった。四十九万八千六百五十六円になる。

 男「画面に432が出てますか。432です」

 言葉通り、画面には432の数字があった。同時に振込先や、振込額も出ていたはずだが、432しか目に入らなかった。

 実はこの数字は、女性が利用した銀行から他行あてに三万円以上を振り込む際の手数料四百三十二円のことだった。後は確認を押せば手続きは完了する。無論、男はこう言った。

 男「確認を押してください」

 区役所職員をかたった電話からここまで、たった一時間十五分ほど。男はさらに続ける。

 男「○○さん(女性の名前)、落ち着いてください。ちょっと間違えたみたいです」

 女性「私は間違えていないよ」

 男「ゆっくりやってくださいね」

 再び同じ操作をしてしまう。今度は別の信用金庫が振込先だ。

 女性「さっきと金融機関が違うじゃん」

 男「いや、ここで大丈夫です。数字を入れてください。4、9、8、6、5、6」

 一度目の振り込みから九分後、再び手続きを終えると、突然電話は切れた。

 (やられた!)

 十年前に夫と別居して一人暮らし。生活費を稼ぐため、六十五歳まで飲食店の調理場で働いてコツコツためた金だった。手元には、ATMがはき出した明細書だけが残った。

女性が実際に手にした明細書。49万8656円を2回振り込んだ

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◇名古屋商科大大学院教授(行動経済学) 岩沢誠一郎さん(51)

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 行動経済学では経済的な意思決定をする際、脳の中には二つのシステムがあると考えます。感情や直感で考える「システム1」。冷静な判断、理性的な思考がある「システム2」です。お金に関する話は大抵、ややこしいですからシステム2を使って考えるべきですが、これは意識的に使わないと立ち上がらない。

 ここで、問題を出しましょう。

 問 あなたは今、とても喉が渇いているとします。次のうち、どちらかを選ぶことができるとしたら、どちらを選びますか

 a 今すぐ、オレンジジュースをコップに半杯

 b 今から5分後に、オレンジジュースをコップに1杯

 行動経済学で「現在バイアス」と呼びますが、今すぐ得する方を選択する人は少なくない。大体、6割ほどがaを選びます。そこに理性はあまり働いていない。還付金詐欺はこうした仕組みを悪用していると言っていい。

 還付金のほかに、詐欺的な金融商品で騙される高齢者も多いですが、いったん時間を置いて、誰かに相談するのが一番です。

 自分のよく分からないことに手を出してはいけない。高齢者に金融教育を受けてもらう制度づくりも必要ではないでしょうか。

◇名古屋銀行事務企画グループ課長 塚原亮さん(47)

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 お客さまの多くは、普段、自分の口座からお金を引き出すときぐらいしかATMを使わないのではないでしょうか。還付金詐欺では、ATMで何ができるのか分からずに被害に遭う人が多いように思われます。

 ATMでは、自分の口座から別の口座に送金する行為しかできません。自分で操作して、外部から自分の口座に入金させる機能はない。まず、それを分かってほしい。もちろん、税金や医療費の還付金手続きで、ATMを使うこともありません。領収書などの書類を添付して、文書による申請が必要です。

 支店内のATMなら、携帯電話で通話しながら操作していれば声掛けするよう指導しています。ただ、コンビニやスーパーなど店外のATMが増えて利便性が向上した分、行員や警備員の目が届かなくなっている。自己防衛として、振り込みの最終確認画面をいま一度よく見てほしい。振込先の口座に身に覚えのない名前が出たらおかしいと思ってください。

◆根強く残る「振り込み型」

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 ニセ電話詐欺(特殊詐欺)では金銭をだまし取る形態として、金融機関のATMや窓口での振り込み型から、手渡し型への移行が進んでいるとされる。

 警察庁が形態別の被害額の統計を取り始めた二〇一三年でみると、手渡し型が二百四十三億円で、振り込み型の二倍以上となった。

 ただし、被害件数では、ともに五千件前後で大差はない。また、手渡し型の被害は東京を含む関東地方で圧倒的に多いのが特徴だ。手渡し型はリスクの高い現金の受け取り役を確保する必要があり、比較的、大規模なグループが行っているとみられる。こうしたグループは関東に多いとされ、中部六県では振り込み型(四百十四件)が、手渡し型(二百三十四件)を上回るなど、全国的には依然、振り込み型が根強い。

 振り込み型に関しては、窓口での声掛けや、金融機関ごとにATMの利用限度額を設定するなど官民一体で防止策に取り組んできた。一三年四月に全面施行された改正犯罪収益移転防止法では、金融機関の利用者が二百万円を超える現金を引き出したり、十万円超の振り込みを行ったりする際、金融機関が目的を確認することが義務付けられている。

 しかし、今回の被害者のように現金ではなく、ATMを使って口座から口座へ振り込むケースは規制の対象外。声掛けや不審な行動のチェックも金融機関外にある独立したATMコーナーや、コンビニなどでは難しいのが実情だ。

 

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