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シリーズ「あなたも騙される」 〜実録ニセ電話詐欺〜

2 被害者…豊橋の女性(62) 被害額…100万円

 被害者の実体験に基づくシリーズ特集「あなたも騙(だま)される」〜実録ニセ電話詐欺〜。第二回は、前回(十月二十五日付朝刊)と同じく息子をかたる「オレオレ詐欺」の被害にあった愛知県豊橋市の女性(62)の事例を紹介する。「子どもの声を間違えるとは思っていなかった」という女性はなぜ騙されてしまったのか。事件をひもとけば、疑うことの難しさが見えてくる。

「ゴホン、ゴホン」

 大好きな韓流ドラマを見ている最中だった。今年三月二十四日午後七時ごろ、豊橋市の一人暮らしの無職女性宅の電話が鳴った。

 男「ウッ、ウッ、ゴホン、ゴホン。僕だけど…」

 息苦しそうに、せき込みながら話し始める。相手が名乗ったわけではないが、くぐもった声に、ぼそぼそとした口調には心当たりがある。

 (あの子、昔からぜんそくがちだから…)。車で五分ほどの場所に住む三十代の息子だと思い込んだ。

 十日ほど前に息子一家と会ったとき、孫がインフルエンザにかかっていたことも、息子と信じた理由の一つだ。自身も数日前に風邪をひいていた。

「別の部屋で寝る」

 女性「苦しいよね。お母さんもそうだったんだよ。薬飲んだの?」

 男「ああ。お母さんに相談したいことがあったんだけど、薬が強いから寝るよ。子どもの友達が来るから別の部屋で寝る。また電話するけど、明日は家にいる?」

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 受話器を置いた後、しばらくして女性は風邪の具合と相談内容が気にかかり、息子の家に電話した。出たのは小学生の孫だった。

 孫「お父さん、まだ帰ってないよ」。その通り、自宅で寝ているはずの息子はそのころ、まだ勤務先で仕事中だった。しかし、男の「別の部屋で寝る」という言葉は、息子の家族が息子の状況を把握していなくても不思議ではない状況をつくり出していた。

 (孫が顔を合わせていないだけかも)。女性はそれ以上確かめなかった。

 翌日、外出もせず、相談事があるという息子からの連絡を待っていた女性が電話を受けたのは午前十一時ごろ。交際していた同僚との別れ話のもつれから、けがをさせた。治療費と慰謝料百万円が必要で、消費者金融に借りて払ったという内容だった。

 さて、ここまで読んで「あれ、どこかで聞いたような…」と感じた読者もいるだろう。シリーズ第一回の愛知県蒲郡市の主婦(64)の事例とほぼ同じ手口だ。女性と主婦が住んでいるのは隣市で、息子はともに同い年。この後、男が「今日の昼までに消費者金融に返済しないといけない」と、焦りを誘う、やり方もまるで同じ。犯人グループが同一の可能性もある。

 男「催促が来ているから、携帯電話を新しくした。この番号にかけて」

 そう言われた女性は、百万円と携帯を手に最寄りの金融機関に着いた。前回の主婦はそのまま振り込んでしまったが、女性はここで少し、不安になった。

 (ニュースで見たオレオレ詐欺に似ている。もしかして…)。駐車場に止めた車中から聞いたばかりの番号にかけてみた。

「本当に○○なの」

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 女性「本当に○○(息子の名前)なの?」

 男「何でそんなこと聞くんだよ。僕だよ」

 女性「普段よりよくしゃべるから、気になって。生年月日言ってよ」

 男「○月○日」

 女性「ごめん、別に疑っていたわけじゃないんだけど」

 男は、生年月日をずばりと言い当てた。女性はあらためて息子だと信じ、金融機関の現金自動預払機(ATM)を操作し、間もなく振り込んでしまった。

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 実はATMの操作中も(おかしい)と思うことはあった。振込先に指定された口座が、東京都内にある信用金庫でカワト・リュウイチという男性の個人名だったからだ。消費者金融の会社名義ではないが、何しろ“息子”の言うことだ。(きっと代表者の名前なんだろう)と自らに言い聞かせた。

 振り込み手続きを終えたのは午前十一時三十五分。本来の息子の携帯電話にかけ、騙されたと気付いたのは翌朝のことだった。

 「子どもの声を間違えるとは思っていなかったし、『お母さん』と言われると心配が先に立って…。オレオレ詐欺のニュースを見るたび、どうして一度立ち止まって息子に電話しないのかと思っていたけど、実際は考える余裕もなかった」。女性はその晩、悔しさで一睡もできなかった。

◇名古屋ビジュアルアーツ声優専攻主任 吉田和正さん(50)

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 被害者の皆さんは「家族の声を間違えるはずがない」と思っていたでしょう。でも、ギターがボディーがあってこそ音が出るように、人の声は体からの音を含めて聞こえる。体からの音が聞こえない電話で見抜くのはもともと難しい。

 今回の女性を騙した男のように実際に、風邪をひいた声をやってみますよ。鼻腔(びくう)を指でふさいで、ちょっとすするでしょ。それだけでも、風邪声っぽくなります。風邪声はのどを使わないので、特徴が出にくい。さらに肉声の母音が強いと、声の特徴が分かりやすいので、子音だけ発音するような感じで話す。簡単に言うと、かすれ声、ささやき声ですね。演技と一緒で、勘のいい人ならできる。詐欺の犯人グループでも、得意な人が選ばれているのかもしれない。

 実は同居する母(80)が、まさにこの女性と同じ電話を受けました。10月22日夜です。男は風邪声で、母は「ちょっと声が変ね」と尋ねたそうです。でも、男が「風邪をひいたみたいでのどが痛い」と答えると、「そうなのかな」と信じてしまった。息子のためにと、かかりつけ医に予約まで入れていました。

 仕事帰りにたまたま電話をしたら、母が「もう声治ったの?」と聞くのでピンときたが、その日に確認できなかったら危なかった。男は、私の名前も知っていて、携帯電話の番号が変わったと知らせてきた。個人情報が漏れやすくなったのでしょうか。被害は決して人ごとではありません。

◇名古屋大大学院教授(行動信号処理) 武田一哉さん(54)

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 電話の音声は、音の情報をかなり圧縮しています。音の高さでは3.5キロヘルツ以上は送信していない。もちろん、通常は問題なく聞こえるし、意味も伝わるが、細かな個性や感情まではなかなか伝わらない。日常生活の中でもそう感じることはありませんか。電話の声と肉声は違うんです。ニセ電話詐欺で緊張状態に置かれた被害者が、家族本人かどうかを聞き分けるのは非常に難しいでしょう。

◆生年月日 趣味嗜好も把握

 ニセ電話詐欺の中でも、代表格といえる「オレオレ詐欺」。手口別の被害総額では「うその投資話」が急増するまで毎年、最悪で、昨年も全体の四百八十九億円のうち、百七十一億円と三割を超えた。

 当初は電話帳などで適当な番号にかけ、「おれ、おれ」と言って、相手が家族の誰かと誤解するのを待つのが主流だった。

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 しかし、徐々にある程度の個人情報を把握したうえで電話する手法が目立つように。警察庁によると、複数の犯人グループに名簿を提供する名簿屋と呼ばれる個人や集団もおり、過去には「宝石購入者」「呉服顧客」など富裕層や、有料携帯サイトの利用者、株取引の経験者などのリストが押収されている。生年月日入りはもちろん、趣味嗜好(しこう)や「夫の在宅が多い」「話し好き」といった細かな情報が書き込まれたものもあったという。

 金銭を要求する内容は千差万別で、最近では比較的、金額を高く設定できる横領や、かばん紛失などを口実にするケースが目立っている。身内ではなく、警察官や弁護士を名乗ったり、今回の女性のように不倫など男女関係のトラブルを装ったりするケースも後を絶たない。

 オレオレ詐欺は他のニセ電話詐欺と比べても女性被害者の割合が多い。昨年でみると六十歳以上の女性が全体の四分の三を占めた。犯人にとって子を案じる母心はつけ込みやすく、日中、自宅にいることが多く、思い通りに動かしやすいことなどが理由とみられる。

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