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全国に広がる忍者ブーム 飯盛結衣(伊賀支局)

戦国時代にあった山城「田矢城」跡を案内する藤井尚登さん。急斜面の地形が天然の要塞(ようさい)となり、外敵を阻んでいた

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 「滅びたな、忍びの国も」。左京亮(さきょうのすけ)が、焼き払われた里を眺めながらつぶやいた。

 冒頭のせりふは和田竜(りょう)作の歴史小説「忍びの国」(新潮文庫)に出てくる一節。戦国時代、織田信長の軍勢を一度は退けた伊賀国だが、四万余の大軍で押し寄せた再度の襲来に村ともども焼き払われる。どきりとするのは、別の織田側の侍がその後につぶやく言葉だ。「斯様(かよう)なことでこの者たちの息の根は止められぬ。虎狼(ころう)の族(やから)は天下に散ったのだ」

 四百年以上たった今、全国各地で「わが町こそが忍者の里」という忍者ブームが起きている。背景にあるのは「リアル忍者」を求める外国人観光客の増加。インバウンドにとって忍者は格好のコンテンツなのだ。

 織田勢との戦いに敗れた伊賀者は、徳川家康をはじめ、地方の藩に仕官した者も少なくない。三重大(津市)で忍者研究をする山田雄司教授のところには「わが町にも忍者がいたのではないか」と古文書の解読を依頼する自治体まで出てきている。忍者の里としてのお墨付き“忍認”を観光の起爆剤にしようというのだ。

◆コスプレに伊賀苦戦

 観光地では、黒装束に頭巾という手軽な装備さえあればあっというまに忍者らしくなる。縁日にあるような手裏剣や吹き矢コーナーがあれば観光客用の「コスプレ忍者」のできあがり。各地の自治体がブームに便乗するのは「忍者の里」の舞台設定が、お手軽なことが一因にある。

 本家本元の忍者発祥の地、三重県伊賀市は、逆に苦戦を強いられている。忍者衣装でまちなかの道場を散策する「伊賀上野NINJAフェスタ」の来場者数は昨年より四千人減り、過去十一年間で最低を記録した。「奈良や京都、伊勢など近隣施設での類似のイベントに観光客を奪われた」と関係者は焦りを募らせるが、もともと観光に不利なところも災いしている。

 奈良との県境にある伊賀市は山に囲まれ、交通の便も悪い上に「忍者の里」らしく閉鎖的な土地柄。よそからの客をもてなす気風とは程遠く、よそ者と見ればむしろ警戒するのが一般的。地元民の感覚としては、「観光」で地域経済を活性化するより、自分たちが食べていけるだけの米をつくる「農業」にいそしんでいる方が気楽でいい。そんな土地柄なのだ。

 私も、伊賀の人たちが「コスプレ忍者」を前面に押し出すより、素のままの「忍びの国」を知ってもらった方がいいような気がする。この地の支局に二年前着任した私は、忍びの国の源流を知りたいと、戦の舞台となった中世城跡を十カ所ほど歩いてきた。

 一見こんもりとした雑木林だが、一歩足を踏み入れると、何重にも張り巡らされた堀や、崩れかけた石垣、急斜面には戦闘用の虎口(こぐち)(城の出入り口)が今も残る。名古屋城など権威を示す城とは一線を画し、まさに命を守るための城であったと実感できる。ここでゲリラ戦を繰り広げられたらひとたまりもない−そんな思いになったのも、城跡が天然の地形や戦国時代そのままの自然と一体化した本物だからこそだと思う。

◆朽ちていく城跡多数

 伊賀地域一帯には五百を超える城跡が存在するものの、保存状態は良くない。案内してくれた一人、伊賀市の城郭研究家・藤井尚登(なおと)さん(65)は行く手を阻む竹や木の枝をなぎ倒しながら「時々登って手入れしなきゃとは思うが、自分もいつまで来られるか。城がこける(朽ちる)のも時間の問題」と嘆く。

 山から里に下りたとき、先祖が忍者だった、という末裔(まつえい)の男性に「山城を歩いている」と明かすと思わぬ言葉が返ってきた。「女性記者が一人で行くところではない。山で出会った人が信頼できる取材相手か、目の奥底まで見抜かないと」。そんな助言に、一般的な観光地での地元の人との交流とはひと味違い、危機管理能力にたけた伊賀忍者の血を垣間見た気がした。

 城跡の再生について、ある観光関係者に水を向けると「中世城跡は必ずしも多くの観光客に受けるとは限らないし、安全な場所とも言い難い」と話し、資金面での整備の難しさを語る。だが所有者と交渉の上、インターネットの「クラウドファンディング」で資金を募るなどやりようはあるのではないだろうか。このまま朽ちるのを待つのはリアル忍者の里を体験した「よそ者」の一人としては、あまりに惜しい。

 小説「忍びの国」が映画化されてこの夏で一年。今も地元向けの「中世城郭巡りウオーク」は催され、ひそかな人気を誇っている。古書、古文書に頼った他地域の「コスプレ忍者」とは一線を画せばいい。城跡が完全に朽ちる前に、現代版「忍びの里」にリニューアルしてほしいと思っている。

 

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