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変わらぬ原子力ムラ(5) 中崎裕(福井支社報道部)

大飯原発再稼働への同意を全会一致で決める町議たち=福井県おおい町役場で

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 「原発だけは、飛行機や電車の事故のようにはゆかない…何かことが起きれば、母さんの故郷は死ぬんだ」

 昭和の終わり、作家の水上勉は地元の福井県若狭地方を舞台にした小説『故郷』で、日本の経済成長を支えた原発の危うさと、田舎に集中するいびつさへの違和感を随所につづった。

 それが現実となったあの日から、七年になる。三月十一日の地震と津波に襲われた東京電力福島第一原発は翌十二日、爆発した。事故は大消費地が、過疎に苦しむ地方にリスクを負わせてきたことを浮き彫りにした。「原子力 明るい未来の エネルギー」。そんな標語を掲げ、都市を支えてきた原発周辺では、今も七町村の人口が県の資料上、空欄となっている。原子力が地元にもたらしたのは、明るい未来ではなく、故郷と当たり前の日常の喪失だった。

 日本で最も多くの原発が立地する福井県で反対運動を続ける中嶌哲演さん(76)は「立地の差別構造」と表現する。昨年十二月から掲載してきたこのシリーズでは、そんな原発を巡る社会構造と当事者たちの変わらない姿を紹介してきた。

◆本命頓挫も掲げる旗

 福島の事故前に全国に五十三基あった原発のうち、福島第一の六基に加え、老朽化した八基の原発が廃炉になった。現時点で動いているのは三基だけ。原発の「本命」だった高速増殖炉(FBR)の原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)も、廃炉を余儀なくされた。

 こうした動きは、根強い反対世論が後押ししていることは間違いない。本紙加盟の日本世論調査会が二月下旬に実施した世論調査では、「原発ゼロ」を目指すべきだという人が75%に上った。だが、政府は原発の「本命」とされたFBRの開発が頓挫しても、「核燃料サイクル」をまったく見直そうとしなかった。

 なぜ実現性の乏しいサイクルに、巨額の税金をつぎ込み続けるのか。それは原発が「サイクル」の旗がなくては動かせない「自縄自縛」に陥っているからだ。

 かつて経済産業省の官僚有志が「十九兆円の請求書」という文書をつくり、政治家やマスコミにロビー活動をした。青森県六ケ所村の再処理工場の試験操業を控えた二〇〇三年のことだ。巨額の費用がかかるサイクルを凍結し、是非を議論すべきだという主張だったが、電力会社でつくる電気事業連合会から「経産省の姿勢と違うことを触れ回っている」と反発を受け立ち消えになった。

 全国の原発から出た使用済み核燃料は、再処理によって再び燃料に使う前提で青森県に運び込まれている。地元は「サイクルをやめるなら原発にすべて送り返す」との姿勢のため、そうなれば使用済み燃料プールが満杯となって動かせなくなるからだ。

 「経産省と電力業界による一種のチキンゲームになっていて、やめるなら再処理工場にかかった費用や地元との関係すべてに責任を負うことになる。責任はどっちだというババ抜きで、両者ともやめられないから、外部から強制的に止めるしかないと考えた」。当時の活動メンバーの一人は、そう説明する。

 原発をやめるなら、当然、サイクルも必要なくなる。だが、経産省内部に原発そのものをやめる雰囲気はなかったという。「原発というテーマそのものが社会運動的で、感情的デマゴーグ(扇動)と近い。合理的なことを考える役人として適切でないという社風のようなもの」と、省内の空気を振り返る。

 こうした脱原発への「感情論」批判は、福井県の西川一誠知事もたびたび口にする。「今なお国民の間では、単に原子力に賛成反対という抽象的な議論にとどまっている」と語り、国や電力業界に原発の宣伝を促してきた。関電は今年「ご理解活動」としてテレビCMや食事付きの格安原発ツアーを倍増させている。

 今後のエネルギー政策の方向性を決めるための有識者会議で、経産省幹部は「原子力に対する社会的信頼をいかに回復、獲得していけるかというのが、今後の検討の軸になる」と議論を“再稼働ありき”で進めた。世界に大きく後れを取ってしまった「自給自足」電源の再生可能エネルギーについては、供給の軸に据える方向性すら示さなかった。

 「原子力発電の将来のあり方をもう一回しっかり見極めて、確固たる方針を示す正念場に来ている」。西川知事は今年一月に経産省の会合でそう語り、地元からは「原発の新増設こそ最大の地域振興」という声すら上がり始めた。

◆福島後、広がる隔たり

 福島事故から七年。原子力ムラの内と外の隔たりは以前より広がっている。米山隆一新潟県知事の言葉を借りれば「世論と乖離(かいり)していることは不幸だと思う」。核のごみ処分も見通せないまま、来た道を進むのか退くのか。原子力ムラが変われない以上、変革ができるのは政治であり、有権者しかいない。

 =おわり

 

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