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変わらぬ原子力ムラ(4) 中崎裕(福井支社報道部)

政府が廃炉を決めた高速増殖原型炉「もんじゅ」=福井県敦賀市で、本社ヘリ「あさづる」から

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 青色発光ダイオード(LED)の開発で二〇一四年にノーベル物理学賞を受けた名古屋大の天野浩教授は、成功まで千五百回以上実験に失敗したという。受賞時に取材を担当し「必ずいつかはものになると確信を持っていたので続けられた」と話していたのが印象的だった。

 失敗は成功の母という。失敗はうまくいかない方法を見つけることであり、無数の失敗の末に成功法を見いだしたとき、科学は進歩する、と。政府は「核燃料サイクル」も同じと思っているようだ。半世紀以上にわたって開発を続け、その「中核」とされた高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が失敗しても、成功を信じて次のステップに進むという。

 核燃料サイクルは、原発で使い終わった燃料を加工し、繰り返し使う仕組み。原発導入が決まった一九五〇年代から、高速増殖炉(FBR)が原発の「本命」とされ、開発が続けられてきた。FBRは、原発の使用済み燃料から取り出したプルトニウムを燃料に使い、使用前よりも多くのプルトニウムを作り出す。繰り返し使い続けられる「夢の原子炉」といわれた。

◆自給自足の「夢」見る

 資源が乏しい日本で、エネルギーを「自給自足」するのが、FBRを通して見た「夢」だった。原発はウランという鉱物が原料だ。政府は原子力を準国産エネルギーとうたっているが、全面的に輸入に頼っている。原発はウラン燃料を一度使うだけ。使用済み燃料を加工し、原発でもう一度だけ使う仕組みを「プルサーマル」と呼ぶが、莫大(ばくだい)な金がかかる上に自給自足には程遠く、FBRでなければ当初の目標は達成できない。

 だが、実用化に向けた第二段階の「原型炉」だったもんじゅは、建設費と維持管理に一兆円以上をつぎ込みながら、二十二年間で二百五十日しか動かなかった。一昨年十二月に廃炉を決定した際、松野博一文部科学相(当時)は「一定の成果があった」と強調。政府はフランスの実証炉開発に協力することで、第三段階の「実証炉」に進む方針を打ち出した。

 原型炉のもんじゅがほとんど動かなかったのに、本当に次の実証炉に移れるのか。私は当時、高速炉の研究者らを何人も取材したが、政府の考えを積極的に肯定した人はいなかった。「百点満点で二十点くらい」。福井大国際原子力工学研究所の竹田敏一特任教授(原子炉物理学)は、もんじゅの成果をそう評した上で「フランスと一緒にやるのはいいが、独自の炉心データがないと、将来的に日本で炉をつくるのは危なっかしい」と指摘した。

 もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構の元理事長も、フランスとの共同研究で進められるとの政府見解に懐疑的だった。「金を出しても枢要技術が得られるか。日本以外の国は軍事予算が入っており、技術の売り買いとは別に本当に機微なデータは教えない。だから日本は独自に開発してきた」と語った。FBRは原爆の材料となるプルトニウムを使うことが背景にある。

 一方、もんじゅの設計に携わった東京大大学院の笠原直人教授は「動かして、失敗して学ぶ。たった一回のナトリウム漏れで十五年近くも止めてしまい、十分な失敗ができていない」と嘆いた。もんじゅの失敗の本質は、運転できなかったことによる「失敗不足」ということだ。

 いくら政府がもんじゅから次のステップに進めると強調しても、失敗不足なら次の成功は見込めないだろう。旧科学技術庁でもんじゅ建設に関わり、原子力局長や次官を務めた岡崎俊雄氏は取材に「ナトリウム漏れが起こるかもしれないという思いは常にあったが、『不安をあおるかもしれない』と行政も事業者も事故の可能性の説明を避けてきた」と明かしたが、それは危険な原子炉の開発に伴う失敗を受け入れる土壌が日本にないことの裏返しだ。

 廃炉決定は、もんじゅという問題児の存在が原発再稼働に影響することを懸念した経済産業省が主導したとされる。元理事長は「今の経産省は事務官僚主導型。自分たちが在籍している間に成果を出して、十年以上先は関係ないという考え方だ」と指摘した。成果を強調して「サイクル」という旗を掲げ続けるのは、まやかしと言っていい。

◆税金注ぎ続けるのか

 政府がFBR開発を打ちだしてから六十年以上。近年は核のごみも減らせるとうたっているが、再処理の事業費だけで十四兆円とされ、さらに税金をつぎ込んで続けるべきものなのか。国が今春に予定するエネルギー基本計画の見直しでは、有識者会議のメンバーの大半を原発推進派が占め、サイクルの是非はほとんど話題に上っていない。もう夢から目を覚まし、失敗の総括をすべきだ。

 

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