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変わらぬ原子力ムラ(3) 中崎裕(福井支社報道部)

暴風の影響で、高浜原発2号機の燃料取扱建屋に倒れたクレーン(手前)

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 新幹線が踏切事故を起こさないのはなぜか−。答えは「踏切がないから」。ある工学者からこんな話を聞いた。高速性を担保するために事故のリスクを徹底的に排除する必要があり、出された答えが高架化と土盛りなどで踏切をなくすことだったという。では、原発は徹底的にリスクを排除できているのだろうか。

 「ご安全に」。原発構内ではこんなあいさつが交わされている。一般社会では「おつかれさま」に当たる使われ方をしているそうだ。取材をしていると、頻繁に「安全最優先」という言葉も聞く。それでも労災事故は相次ぎ、雨漏りしたり、ケーブルの配線が図面と違っていたり。一年ほど前には、暴風警報に気付かず、関西電力高浜原発(福井県高浜町)で大型のクレーンが使用済み燃料の建屋に倒れたこともあった。

 もちろん放射能漏れを起こすような重大な事故ではない。昨年七月、当時原子力規制委員長だった田中俊一氏は高浜原発の地元住民と意見交換した際、「福島のような事故が起きるなら、許可は出しません」と断言した。

 原発の安全確保策は単純だ。水で核燃料を冷やし続ければいい。そのために新規制基準後、電力会社は冷却水のポンプやそれを動かす予備の電源を増やした。

 現場で努力が重ねられているのは確かだが、その上で「規制委が認めれば、安全確保されている」というのが再稼働の根拠とされている。が、規制委は決して万能ではない。

◆「想定の揺れは過小」

 「不都合な真実を規制委が覆い隠そうとしている」。関電が大飯原発(同県おおい町)で想定する揺れは過小だと指摘する島崎邦彦東京大名誉教授(地震学)は、取材にそう語った。島崎氏は二〇一二年の規制委発足時からの委員で、規制委で唯一の地震学者だったが、一四年に退任した。

 一六年四月の熊本地震をきっかけに、大飯原発で使われている計算式では過小評価になることに気付いたといい、田中氏らと面談したが、結局、規制委は忠告を聞き入れなかった。面談で今の計算式を使わないよう求めた島崎氏に、田中氏は「すぐにやめる手だてを持っていない。島崎さんの分野で、はっきりとした結論ができるだけ早く出ることを期待したい」と語った。

 規制委はそのまま昨年五月に大飯原発の再稼働を認めた。その日の記者会見で、私は田中氏に「地震学分野の見解がまとまるまで待つ選択肢はなかったのか」と尋ねたが、委員長の代わりに事務局の職員が「新しい知見が出れば当然議論する」と答えただけだった。

 ふと思い出したのは、十年前の中部電力浜岡原発訴訟だ。〇七年二月十六日、静岡地裁の傍聴席で、私は証人尋問を聞いていた。住民側が、配管の同時破断などを考えていない事故想定は不十分と追及すると、班目(まだらめ)春樹氏(元原子力安全委員長)が「割り切らないと設計なんてできない」と発言した。

 当時、中電は反対派の批判に応えるように揺れの想定を引き上げ、耐震性向上対策を取っていた。何度も原発に入り説明を聞いたが、「こんな複雑な装置が、激しい揺れの中ですべて計算通りに機能するのだろうか」という疑念が拭えなかった。班目氏の発言こそ、私には割り切れなかった。

 そして四年後に、福島第一原発が爆発した。津波が原因とされるが、指摘を聞き入れずに「割り切った」結果だった。規制委は福島事故の反省から出発した組織であり、現在の委員長もかつての原子力安全・保安院との違いを強調している。

◆専門家と認識にずれ

 大飯原発の地震想定を巡る問題は、安全の根幹に関わる。もやもやが晴れず、計算方法の策定元である政府の地震調査委員会の検討会合議事録を情報公開で取り寄せた。地震の専門家の集まりである地震調査委と、地震学者のいない規制委の間で認識にずれがあることが明らかになった。

 議事録には、計算方法を確立するには「審議に三年ぐらいかかる」との見方や「現在の原子力安全審査には問題がある」との発言があった。地震の専門家がいない規制委がいくら大飯原発の地震想定を「十分に安全」と強調しても説得力に欠ける。疑わしさは残るが、新しい計算法が決まるまでは使ってもいいという姿勢は、「割り切る」と言った事故前の原発規制と重なって見える。

 規制委が再び外部とずれた「原子力ムラ」に戻れば、第二のフクシマを招く。ちなみに冒頭の工学者は新幹線の話にこう続けた。「原発事故をなくすには、原発をなくすしかない」。原発を続けるなら、規制委が認めれば大丈夫という安全神話ではなく、リスクを受け入れなければならない。

 

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