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西山美香さんの手紙・供述弱者を守れ 2人の祖母、私の無実信じてくれた 秦融(編集委員)

出所後の美香さんは、母方の祖母の墓参りを日課にしている=滋賀県彦根市内で

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 八月二十四日に和歌山刑務所を出所して以来、西山美香さん(37)が日課にしていることがある。自宅近くにある母方の祖母の墓参りだ。

 「仕事が休みの日に二人で買い物したり、食事に行ったり。けんかもよくしたけど、本当にかわいがってくれました。プリクラを撮ったのが、最近出てきたんですよ」

 美香さんは、おばあちゃん子だった。同居の母方の祖母と、少し離れたところに住んでいた父方の祖母。「どちらにも敬老の日や誕生日には服をプレゼントしてました」。父親の輝男さん(75)と母親の令子さん(67)は二人の兄の進学費用のために共働きで忙しく、幼い頃から美香さんの遊び相手は祖母たちだった。

◆落胆の両親を説得

 二〇〇四年七月に美香さんが逮捕されたとき、警察は「本人が自白している」と発表。うちひしがれる両親に対し、特に父方の祖母は「美香はそんなことできる子やない。親が信じてやらんと誰が信じてやるねん」と説いた。面会を重ねるうち輝男さんは「娘はわけがわからないまま、警察のいいように自白させられたことがわかってきた」という。

 父方の祖母は逮捕翌年の〇五年、母方の祖母は一一年に亡くなった。収監中、美香さんが両親にあてた手紙に、父方の祖母が夢枕に立ち、無実の訴えが届かず自暴自棄になって自殺未遂を繰り返した美香さんを諭す話が出てくる。

 「今日夢の中に八町のおばあちゃんが出てきた。私にかたりかけてくるねん。それでなあ、『お父さんお母さんが外で辛(つら)い思いして、かたみのせまい思いしてるやん。でも美香の無実を信用して絶対そんなことないって思っているからそこで住めるんやし、がんばってお父さんははたらいておれるんやで。それに美香はまだこっちの世界にくるには、早すぎる』って言うねん。『これから辛いことも多いし、また死にたいと思う時がくるとおもうけどなあ、辛いことあった分、うれしいことや幸せなことがきた時の感激は人一倍やで』と言うねん。『辛い分幸せもやってくるし…』って。なんかふしぎな気持ちになったんよ。もうちょっとがんばってみようかなって」(〇七年の手紙、抜粋)

 その夢には、こんな続きがある。

◆にげてたらあかん

 「次に、私がまだお母さんのおなかの中にいる時のことが出てきた。3人目でお父さんがお母さんに『女の子やったらいいのに。でも男の子でも2人みたいにかわいい子がいいなあ』って言ってるねん。それでなあ、私が産まれて当然女の子やからめちゃくちゃよろこんでくれとったんやけど、成長がめっちゃおそかったから病院つれていってもらっても異常がなくて、でもお母さん、その時めちゃ心配で、『この先この子ふつうの子と同じようにできるんやろか』とか言ってるねん。でも『この子がどんな障害をもっていても私らの大事な子供やから20才になるまではてしおにかけて育てていこうな』って言ってるん」(同)

 祖母と両親が出てくる夢の話をつづった後、手紙は気持ちを奮い立たせるように「にげてたらあかんのやと思えるようになってきたん」と結ぶ。

 再審に向けての日々は、夢を見たころと同じように「先が見えず、本当に精神的につらい」という。「自分だけのことなら、やめたい、と思ったことが何度もある」とも打ち明ける。

 「でも、両親が自分よりもっとつらい思いをしていることが分かるから、親のためにあきらめちゃいけない、と思い直すんです」

 二人の祖母、両親に続いて「私を信じてくれる」人の輪は恩師、友人、近所の人たちへと静かな広がりを見せ、出所後を生きる美香さんの心の支えになっている。

◆配慮欠く取り調べ、尋問横行

 私たち取材班は一年前、西山美香さんが獄中から親に送った三百五十通余に及ぶ手紙を読み、「殺ろしていません」(原文のまま)と繰り返す切実な訴えを知った。裁判資料を調べると、逮捕前も逮捕後も、取調官に誘導されたような痕跡が随所にあった。

 取材班は弁護団と協力し、精神科医と臨床心理士とによる獄中での知能・発達検査を実施。美香さんが「防御する力が弱い」供述弱者とわかった。密室の取調室で自暴自棄に陥って自白させられ、取調官の意のままに供述を誘導された可能性が高い。事件死とした司法解剖鑑定書の正当性も疑わしく、脳死に近い終末期患者の病死が“事件”にされたのではないか、との疑念を持っている。

 日本の司法では、供述弱者に配慮を欠いた取り調べや法廷での尋問がいまだにまかり通っている。それが冤罪(えんざい)の温床になっているのではないか。再審を求め、供述弱者の視点で事件の検証を続ける。

 <事件経過> 滋賀県湖東町(現東近江市)の湖東記念病院で2003年5月、植物状態末期の男性=当時(72)=が死亡。04年7月、滋賀県警は当直の看護助手西山美香さん=当時(24)=が待遇が不満で殺害したとして逮捕した。05年大津地裁が懲役12年の判決。07年最高裁で確定後、再審請求。

 

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