トップ > 特集・連載 > ニュースを問う > 記事一覧 > 記事

ここから本文

ニュースを問う

変わらぬ「原子力ムラ」(1) 中崎裕(福井支社報道部)

関西電力大飯原発3、4号機の再稼働におおい町議会が同意した際、抗議する再稼働反対派=9月、福井県おおい町役場前で

写真

 「フクシマの現実を見ろ。電気は足りているし、もう原発は動かなくたって困らない。作業員に新しい仕事ができれば終わる話だ」

 この意見を聞いて、どう思うだろうか。おそらく「その通り」と言う人が、この国では多数派だろう。さまざまな世論調査で、再稼働反対や脱原発支持が過半数を占めている。

 だが、大規模なデモが繰り広げられても、原発は各地で動きだした。それは原発を動かしたい政府と電力会社に、地元が同調しているからに他ならない。冒頭の発言は今年九月、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を巡る福井県おおい町議会の特別委員会で、関西在住の反対派が大声で叫んだもの。怒号で委員会は中断したが、すぐ全会一致で再稼働支持を表明した。

 再開後に出た賛成理由の大半は「経済」だった。ある議員は「原発が止まり、廃業に追い込まれている。町の未来を考えると、共存共栄しか生き残る道はない」と言った。後で廃業したところを取材したいと頼んだら「分からない」という根拠のない意見だった。それでも賛成なのは原発を失った先が見えないからだ。

◆半農半漁の「島」

 原発はだいたい一年に一度、三カ月ほど定期検査をする。そのたびに三千人ほどの作業員が訪れる。四基の原発があれば、ほぼ一年中、民宿の客が途絶えることはない。ある民宿経営者は「再稼働したって客が入るのは一年以上先や」と、原発が動かない状況への恨み節を漏らした。釣りや観光の客だけでは商売が成り立たない民宿が多い。

 大飯原発がある大島は半島だが、原発ができるまでは道路がつながっていない文字どおり「島」で、ほそぼそと半農半漁で暮らしていた。おおい町全体も、目立った産業はない。十一月二十七日付の朝刊で、地元で原発誘致に携わった旧大飯町の元幹部の思いを伝えたが、町は交通網が弱く、企業誘致に失敗し、農業振興策も青息吐息だった。一九五七(昭和三十二)年には既に「財政再建団体」に指定され、その後も洪水被害で疲弊しきっていた。

 言ってみれば、万策尽きた末に頼ったのが「原発」だったのだ。原発建設のため大きな橋がかけられ、念願の道路がつながった。冒頭に「作業員に新しい仕事ができれば終わる」という発言を紹介したが、それができるなら、そもそも原発はなかった可能性が高い。

 今は交付金で豊かじゃないかと思うだろうが、おおい町は財源の六割を原発に依存している。かつて炭鉱で栄えた地域が苦しくなったように「なくなったら間違いなく破綻した北海道夕張市の二の舞い」(民宿経営者)という意識が強い。

 大飯原発のお膝元である大島で住民を訪ねて回ると、危険性を訴える主張はほとんど理解を得られていないことが分かる。この民宿経営者は、五年前に大飯が政治判断で再稼働した際にデモ隊が地元で反対を声高に叫ぶ姿を見て「はっきり言って不愉快だった」と切り捨て、「止めておいても危険がなくなるわけじゃない。あるなら動いた方が地元にはいい」と語った。

◆反対派と深い溝

 デモ隊は東京や関西から訪れたメンバーが中心で、地元の住民はほとんどいない。地元には電気を送って都会の繁栄を支えてきた自負がある。その都会から手のひらを返したように批判を浴びれば、溝は深まるばかりだ。こうした状況は原発を巡る地元と反対派の断絶を、ある意味で象徴しているように思う。

 地元で反対運動を長年続ける中嶌哲演さん(75)は「地元で再稼働を認めている人は、安全性に自信があるからではなく、自分たちの生活や自治体の財政がどうなるかという明日への強い不安から、再稼働にきっぱり反対できない」と話し、「再稼働しなくても抜け出せるという施策やビジョンを示せば、存続しなくていい」と語る。

 地元にも、内心では原発はない方が良いという声は少なくない。だが、3・11後も、政府、電力会社、地元という「原子力ムラ」の構図は変わっていない。それは過疎化というこの国のあり方と密接な関係がある。原発と生きざるを得ない事情を理解せず、断絶したまま「危険」や「不要」といくら叫んでも、地元に声が響くことはないだろう。

      ◇

 福井県知事の同意により大飯3、4号機が再稼働する見通しとなった。未曽有の災害といわれた「3・11」を境に、この国は変わったのだろうか。こと原発に関しての答えは「NO」ではないか。日本で最も多くの原発を抱える福井県に身を置き、感じている「変わらない現実」を考えたい。

 (随時掲載します)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索