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ニセ電話詐欺の現場(下) 伊藤隆平(北陸報道部)

記者が購入した名簿の電子データ。左の欄は年齢。写真に写っていない部分には、名前や自宅の電話番号、番地までの住所が載っていた(一部画像処理)

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 善良な市民にとっても、犯罪をもくろむ者にとっても、便利な世の中だ。インターネットで情報の多くは自在に入手できる。個人情報も例外ではない。

 ニセ電話詐欺の犯行グループは、全国各地の個人の生年月日や住所、電話番号を販売する「名簿業者」から高齢者の情報を入手している。業者たちはホームページを構え「多彩な名簿」や「最新の情報」を宣伝。私は、どのように購入できるか確かめるため、体験取材をした。そして、利益を優先するあまりに顧客を選ばない業者もいることを知った。

◆難なく名簿を購入

 石川県かほく市のある地域を指定し「六十歳以上の住民の名簿をください」と、ホームページ上の問い合わせフォームで注文した。一人あたりの情報が二十円。利用目的の説明は求められなかった。身分を確認されることもなく、四百五十人分を購入できた。

 業者がどこから手に入れているのか気になった。注文に対応していた男性に尋ねると、企業が持っている「商品の購入履歴」を一つに挙げた。私たちが買い物の際、申込用紙などに記入する個人情報のことだ。私が「その情報を入手し、勝手に販売してもいいのでしょうか?」と尋ねると、「法的にいいわけではないですが…」と言葉に詰まった。

 個人情報保護法は、メーカーなどの企業が顧客の個人情報を、名簿業者ら第三者に提供する場合、本人の同意を得なくてはいけないと定めている。ただ得ていない場合でも、第三者に提供する旨をホームページなどで公表すれば合法となる。

 私がやりとりした業者が「法的にいいわけではない」と答えたのは、手続きを踏んでいない企業から、商品の購入履歴を手に入れたからだろう。担当者の男性は道義的な問題にも自覚があり「うちから購入したことを本人たちに伝えないでほしい。勝手に何をやっているんだと怒りを買ってしまう」と頼んだ。

 「夫の名前を出され、信じてしまった」。五百万円をだまし取られる寸前だった石川県内の八十代の女性は、そう話した。名簿の流出によって狙われたとみられる一人だ。

 女性は「詐欺だと疑ってください」と書かれた警察からのはがきを電話の前の壁に張り、「自分はひっかからない」と思っていた。それでも地元警察署の警察官を名乗る男に「お金を不正に引き出された四十人ほどのリストにご主人の名前がありました。手遅れになる前に全額引き出してください」と言われ、慌てて銀行で現金を下ろした。帰宅して近隣住民に相談するまで信じ込んでいた。

 女性の近所ではこの前後に数件、七十、八十代の高齢者宅に同様の電話があった。県警は、犯行グループが名簿を見ながら電話を繰り返していたとみて捜査をしている。

 電話帳や住宅地図の情報のように、個人情報は社会で共有されるべきだ、との考え方もあり、国の個人情報保護委員会は「公開と規制のバランスは難しい」との見解を持つ。そうだとしても、名簿がニセ電話詐欺の犯行ツールとなっている現状は野放しにしてはいけない。新たな規制方法を考えるべきだ。そして、名簿業界は利益ばかりにとらわれず、被害をもっと深刻に受け止め、自主的に販売相手を見極める必要がある。

◆ネットで人員募集

 「十年前と同じ状況が続いている。ネットで末端の人間が集められ、名簿が悪用されている」。ニセ電話詐欺に加担していた十年前に詐欺容疑で逮捕された四十代前半の男性=岐阜県多治見市=は危惧する。

 男性は、犯罪の温床となっていたネット上の掲示板「闇の職業安定所」で指定暴力団稲川会系の組員を名乗る男と知り合った。被害者に金を振り込ませる金融機関の口座を、偽造の身分証明書を使って開設していた。報酬は一回三、四万円に上った。

 男性は畜産業を営む実家で働いていたが、経営は厳しく、二百万円以上の借金を抱えながら手取り十万円の給料で妻と乳児の長女を養っていた。「口座が詐欺に使われていると知っていたけれど、目先の金しか見えず、心は痛まなかった」。

 町工場でこつこつ働く毎日を送るようになった今も、誰かに突然「犯罪者」と呼ばれ、過去を指摘されることにおびえている。逃げおおせた者がいたとしても、だました過去は「消えない悔い」として必ず残るのだ。

 ネット、携帯、名簿を悪用した巨大な「犯罪ビジネス」。共犯者の募集はネット上でおおっぴらに行われ、被害者の個人情報も本人の知らぬところで売買されていた。放置したままでは犯行は止まらない。

 それぞれの業界と捜査機関が連携を強化し、地道な摘発を続けてほしい。人をだませば裁かれる。それが当たり前の社会を守るために。

 (北陸報道部・伊藤隆平)

 

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