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ニセ電話詐欺の現場(上) 伊藤隆平(北陸報道部)

「受け子」を募集している掲示板。「是非やりたいです」との書き込みもあった(一部画像処理)

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 高い報酬で釣るだけではない。金を求める者たちの思考力を、時に巧みに、時に強引に奪い、言いなりに動く「道具」にしていく。

 ニセ電話詐欺の犯行グループは、高齢者らの家に金品を取りに行く「受け子」などをインターネットの掲示板で募集している。体験取材を試み、電話で接触した最初の男の声は、二十代前半ぐらいに聞こえた。

 「仕事はぶっちゃけ詐欺です」。犯罪の一端を担っていることにためらいを感じさせない、落ち着いた話し方。ただ、どこかあどけなさも交じっている。暴力団と一般人の間の「半グレ」グループに入ったばかりだろうか。彼もまた受け子と同じで、首謀者に「道具」として使われていたのかもしれない。

◆身分証明書を要求

 男は運転免許証などの身分証明書の写真をメールで送るよう求めてきた。断ると「それをもって僕らが何かするってわけじゃないですよ! 何をためらってらっしゃるんですか? 普通の仕事だって住所や顔写真出すでしょ? それと一緒ですよ。それもしないで採用っていうのはこちらも気持ち悪いでしょう」と説得してきた。ここで教えてしまうと「住所を知っているぞ」などと脅され、加担を強要されてしまう。

 記者が逮捕される不安を伝え、煮え切らない態度でいると「びびってんじゃねーよ!」と怒鳴りつけてきた。それでも「やはりもう少し考える時間がほしい…」とためらうと「うるせえな! やらないならやらないってはっきり言えよ!」と、今度はあせっているように声を荒らげた。募集の仕事は翌日。応じる者を早く見つけなくては、立場が危うかったのだろう。

 別のグループの一員とみられる男とも掲示板を通じて連絡を取り、電話で話した。今度は三十代ぐらい。セールスマンの経験でもあるのだろうか。さわやかさと温和さを兼ね備えた声色で、商品を紹介するようにさまざまな仕事を持ち掛けてきた。

 「受けのほかに、運びや、携帯電話の契約もありますよ」

 捕まるリスクを恐れていることを話すと、「携帯電話の契約は捕まりませんよ」と、サラッと言い切った。他人名義の契約で逮捕された者は過去にいくらでもいるが、知らなければ信じてしまうだろう。記者が「考えさせてほしい」と頼むと「わかりました。じゃあまたこちらからかけます」とすんなり引き下がった。前の男と違って「押し売り」はせず好感度を上げようとするタイプに思えた。

 記者はもう一人、さらに別のグループのメンバーとみられる男とも電話をした。二人目のようにセールスマン風だったが、やや過剰に明るく、軽快。なにより早口だった。考える間を与えない。「もしもし! お世話になっております。どんなお仕事を希望されています? うちはブラック、グレー、ホワイトとあるんですよ。色が濃くなるほどリスクも報酬も高くなります。どうされます?」

 受け子や携帯電話の契約は「ブラック」だという。受け子の仕事を希望すると「単発(一回)より、一週間続けてもらった方がいいですよ。単発だとうまくいっても、その後から、次の人においしいところを持ってかれちゃうんですよ。その代わり通しだと、一週間はこちらに滞在してもらいますけど」。なぜ「次の人」が利するのかわからないが、考えずに聞けば「そうなんだろう」と思ってしまいそうだ。

 男は「ホワイト」の仕事をこう説明した。

 「私書箱の仕事とかです。ただ、現金とか覚醒剤とかじゃなくて、化粧品とか。受け取ってもらっても自分の名義じゃ届かないから大丈夫なんです。これも一週間こちらでやってもらいます。名前のところに×をつけるだけ。一カ月で二十万円稼げます。リスクゼロです。全く犯罪じゃありません」

◆理解が追いつかず

 テンポが速すぎ、理解が追いつかない。男は、別のホワイトの仕事も打診した。「金融で借り入れるんです。二、三回払って飛ばす。情報を消すんですよ」。続いて詳細をまくしたて、最後に「五十万手取りです」と提示した。ニセ電話詐欺の一端なのか、別の詐欺なのかわからないが、「おいしい話」で誘い込んでいることは明らかだった。

 ニセ電話詐欺がなぜ「犯罪の成功例」となってしまっているのか。末端の役割を担う者を、無限に増殖させていく手口が浮かび上がった。その一人一人が巨大な組織の歯車として、罪の意識もなく、ただ指示された「役割」を担い、黙々とこなしている。おそらくは−。

     ◇

 今や巨大な「犯罪ビジネスの成功モデル」となってしまったニセ電話詐欺。加害と被害の実態に迫り、阻止する糸口を探った。

 

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